【特集】複雑に絡み合う時系列まとめ、 X-MENシリーズが紡ぐ現実の社会問題とは

人気アメコミ映画シリーズの最新作『X-MEN:アポカリプス』が、8月11日より遂に公開となる。「どの順で見ればいいのか分からない」「時系列が複雑」と言われてしまうこともしばしばな本シリーズ。しかし、それだけで敬遠してしまうには勿体ない、いま観るべきことが描かれたシリーズだ。それぞれの作品を理解すれば、ド派手なアクションやCGというエンターテイメント性だけではない、他のハリウッド大作とは一線を画す存在であることが分かるだろう。

X-MEN:アポカリプス
(C)2016 MARVEL & Subs. (C)2016 Twentieth Century Fox

「X-MEN」シリーズの概要

本シリーズの舞台となるのは、通常の人間とは異なり、特殊能力を持って生まれた「ミュータント」が存在する世界である。ミュータントたちはマイノリティであり、人間たちにとって異質な存在として差別や恐怖の対象となっている。そうした中で、人間たちとの共生を目指すのがプロフェッサーX率いる”X-MEN”である。それに対して、人間との共生を望まず、理想のためなら暴力をも辞さないのがマグニートーの軍団であり、相対する彼らがミュータントとしてのお互いの理想の違いから、人間たちまで巻き込んだ戦いを繰り広げていくのが、主なストーリーだ。


シリーズの公開順

公開順から作品を整理してみよう。(今回はシリーズとしての作品のため、独立した作品である『デッドプール』は除外する。しかし、あまりの人気ぶりに、続編からは本編との繋がりが出るという話も出ているため、期待して待とう)

X-MEN
出典:http://www.altpress.com

①『X-メン』(2000)…シリーズ第1作であり、「ミュータントは危険か否か」ということに焦点が当たる。本作の世界的ヒットが、その後の『スパイダーマン』(2002)や『ハルク』(2003)などの後押しとなったため、現在のMARVEL映画を切り開いた原点とも言える。

②『X-MEN 2』(2003)…「”平和共存”は人類が苦手としてきたことである」という不穏な言葉と共に物語が始まる。今作ではミュータントを根絶しようとする人間側との戦いになり、前作では敵対したマグニートーと協力するのだが…。

③『X-MEN:ファイナル・ディシジョン』(2006)…旧三部作の完結編。ミュータントから能力を取り除く治療薬「キュア」が開発されたことから戦いが勃発する。見た目の違いなどのコンプレックスや差別から解放されるために薬を使おうとするミュータントと、ミュータントを根絶するために薬を使用する人間、彼らを守ろうとするX-MEN、そして「ミュータントは人間の進化した形であり、治療するものではない」というマグニートーたちの戦いである。

④『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(2009)…これまで明かされなかった、ヒュー・ジャックマン演ずるウルヴァリンの生い立ちを描いたスピンオフであり、旧三部作の前日譚である。彼の悲しい過去と、「ウルヴァリン」という呼び名の由来などが描かれる。

⑤『X-MEN:ファースト・ジェレネーション』(2011)…新三部作の始まりであり、X-MENの成り立ちを描く前日譚である。若き日のプロフェッサーXとマグニートーということで、それぞれジェームズ・マカヴォイ、マイケル・ファスベンダーがキャスティングされた。マグニートーが少年時代に両親と引き離されてから、どのようにして過激な思考を持つに至ったかに迫る。

X-MEN
(C)2013 MARVEL & Subs. (C)2013 Twentieth Century Fox

⑥『ウルヴァリン:SAMURAI』(2013)…第3作「ファイナル・ディシジョン」から繋がるウルヴァリンのスピンオフ第2弾。その治癒能力で生き残ってしまうがゆえに愛する人々を失い続け、生きることに疲れ果ててしまったウルヴァリンが、過去の縁で日本へ来ることとなる。真田広之を始めとして、TAOや福島リラら日本人キャストが主要キャラクターとして出演した。東京の街中から長崎の漁村まで、全国各地で撮影が行われたことでも話題になった。

⑦『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014)…ミュータントと、ミュータントに協力する人間までもが虐殺されるディストピアと化してしまった近未来。こうなるきっかけとなった事件を阻止し、未来を変えるため、ウルヴァリンは過去へタイムトラベルする。

⑧『X-MEN:アポカリプス』(2016)…「フューチャー&パスト」の続編となる最新作であり、新三部作の完結編。人類史上初のミュータントとして紀元前に誕生し、世界の歴史に様々な神として語り継がれてきたアポカリプスが、永い眠りから目を覚ます。堕落した人類に怒ったアポカリプスは、マグニートーら4人のミュータント「黙示録の四騎士」を率いて、世界を再構築するために滅ぼそうとする。若きX-MENメンバーはこれを阻止するために集結する。


時系列

次に、これらを時系列に並べるとこうなる。

④『ウルヴァリン:X-MEN ZERO
⑤『X-MEN:ファースト・ジェレネーション
⑦『X-MEN:フューチャー&パスト』(過去パート)
⑧『X-MEN:アポカリプス
①『X-メン
②『X-MEN 2
③『X-MEN:ファイナル・ディシジョン
⑥『ウルヴァリン:SAMURAI
⑦『X-MEN:フューチャー&パスト』(未来パート)

第1作でさえ時系列に並べると5番目になってしまい、公開順と時系列が全く異なることが一目瞭然である。また、前作の「フューチャー&パスト」は「ファースト・ジェネレーション」後の過去パートと、「SAMURAI」のラストから繋がる未来パートがそれぞれ描かれる。つまり、新旧両シリーズの続編となっているのだ。

また、「アポカリプス」も「フューチャー&パスト」の過去パートから続き、舞台は1983年。よって公開順に観ることが最もわかりやすく、かつ最新作を楽しみ尽くすことが出来るだろう。


今こそ「X-MEN」を観るべき理由

作品を追うごとに進化していくVFXやアクション、シリアスなストーリー展開も注目の「X-MEN」シリーズ。しかし、そうしたハリウッド超大作的要素に加え、他の人気作と一線を画す要素とは、正に現代社会の問題を描いている点にある。

「X-MEN」シリーズの中では、ミュータントたちはマイノリティとして、差別や迫害の対象とされている。それでも人間との共生が出来ると信じるプロフェッサーXと、共生する必要がないとするマグニートーは、両者とも「ミュータントの繁栄」を望んでいながらも、理想が異なるがゆえに対立する。この関係は、同じく黒人差別問題に取り組みながら、暴力を用いるか否かの点で異なったキング牧師とマルコムXの関係に例えれることもしばしばだ。

X-MEN
『X-MEN:アポカリプス』ロンドンプレミアに出席したブライアン・シンガー Photo:Jacob Bryant

また、第1作『X-メン』も、新三部作の始まりである「ファースト・ジェネレーション」も、ナチスのホロコーストにより、両親と引き離されるマグニートーの少年時代のシーンから始まる。その上、後者においては、人種差別問題に取り組んだことでも有名なジョン・F・ケネディ暗殺も取り上げられている。そして、この物語を紡ぐスタッフやキャスト自身もマイノリティである。『ユージュアル・サスペクツ』の監督としても著名で、「X-MEN」では監督や製作としてシリーズ全体の舵を取り、「アポカリプス」の監督も務めるブライアン・シンガーは、バイセクシャルを公表している。マグニートー役のイアン・マッケランも、今年のアカデミー賞で差別が論争の的となった際、ゲイとしてコメントをしたことが記憶に新しい。そうした制作側の要素も、より作品にリアリティを持たせる要因となっており、マグニートーもヴィラン(悪役)ながら内面に迫る描写が多く、根強いファンを持つ一因かもしれない。

つまり、「X-MEN」シリーズは、人種差別やマイノリティへの偏見、思想の異なる者を排除しようとするテロなどの現実世界の問題を、人類のミュータント迫害や、ミュータント内での思想の違いによる争いに置き換えて描いているとも言える。これは差別・迫害・テロといった、「自分と異なる」という意識から発生する恐怖との戦いの物語なのだ。国内外で痛ましい事件が続く昨今、こうした問題を描きながらもハリウッド超大作としてのエンターテイメント性を両立した「X-MEN」を、改めて鑑賞し直してみてはいかがだろうか。

最新作『X-MEN:アポカリプス』は8月11日(金)公開

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