推理小説「猫弁」シリーズで知られる大山淳子の同名小説(キノブックス刊)を原作とする映画『猫は抱くもの』は、思いどおりの生き方ができず、いつしか心に孤独を抱えてしまった30代女性と、自分を彼女の恋人だと信じて疑わない猫との関係を描いた物語。監督を『ジョゼと虎と魚たち』『メゾン・ド・ヒミコ』『グーグーだって猫である』などで知られる犬童一心が務める。
映画ランドNEWSでは、2012年公開の『ヘルタースケルター』以来6年ぶりに映画主演を務める沢尻エリカ、自分を主人公・沙織の恋人だと思い込むロシアンブルーの猫・良男(よしお)役の吉沢亮、売れない画家・ゴッホに飼われていた猫・キイロとして映画初出演を果たし、さらに「水曜日のカンパネラ」として初の劇伴を担当するコムアイの3人に、今作『猫は抱くもの』の魅力や役作り、撮影秘話などを語ってもらった。
──台本を読んでみていかがでしたか?
沢尻:最初は現実世界と妄想世界が入り交じって描かれているところに「すごく面白いな」と思った反面、「これは一体どうやって撮るんだろう」と想像がつかない変わったお話だなとも思いました。読み進めていくうちに今まで見たことのないような面白い作品になるんじゃないかという期待が持てたので、ワクワクしながら最後まで読んだのを覚えています。
コムアイ:わたしは猫の役というオファーだったので、アフレコで声を入れるものだと完全に勘違いしていたんです。“やった〜!声優デビューできる!”と喜んで台本を読ませて頂いて、それでもまだ人間の姿で猫を演じるということに気付かなくて…(笑)。あとで監督に説明して頂いてようやく理解しました(苦笑)。
吉沢:そうなんですよね。台本を読ませて頂いても現場に入ってみないとわからないなと思うぐらい全く想像がつかなくて、現実と妄想の世界が入り交じっているのが新鮮で面白かったです。それにファンタジーなだけじゃなくリアルな人間のダサい部分みたいなものもしっかりと描かれていたので、そういうところが素敵だなと思いながら読ませていただきました。
──それぞれの役をどのように捉えて演じられましたか?
沢尻:沙織は偏屈で自分の殻に閉じこもってしまっている女性ですが、唯一、良男だけが素の部分を見せて甘えられる存在なんです。そういうところは乙女で可愛らしいと思いますし、すごくリアリティがあって好きです。あと、妄想癖のある女性なんですけど、実は私も似たようなところがあるんです(笑)。コムアイちゃんは妄想することある?
コムアイ:あんまり妄想しないです(笑)。
沢尻:そうなんだ(笑)。わたしが普段よくやるのが、例えば「わたしがいま科学者だったら」とか、「刑事だったらどうなるだろう」とまず職業から考えて、それを現実の世界に置き換えてみるんです。よく現場の待ち時間でも頭の中で“吉沢くんがこの職業でわたしがこの職業で…”と妄想の世界に入っちゃったりして(笑)。だから沙織のことがすごくよく理解できました。
コムアイ:わたしは、キイロが未来に対して目標を定めてそこに向かっていく感じではなく、猫らしいマイペースなところが自分に似てるなと思いながら演じていました。最初に音楽を初めたのも、誘われたからなんとなく乗っかってみようかなと思ったのがきっかけでしたし(笑)。
吉沢:僕は良男を演じる上で猫の動物的な部分というか、未来や過去に縛られずに“今を生きるんだ”ということを意識しながら演じていました。僕自身はめちゃめちゃ過去に縛られるタイプですし、ネガティブなものが後を引くので良男と真逆なのも面白かったです(笑)。
──コムアイさんと吉沢さんはどのぐらい猫っぽさを意識して演じられたのでしょうか?
コムアイ:この映画に登場する(人間が演じている)猫はみんな人間っぽいところがあるのでそこまで意識しなかったんですけど、良男とキイロがハクビシンの話をしているときは“猫っぽいな”と感じました。キイロがハクビシンにしっぽを喰われたと話すシーンはすごく可愛いですし、猫狩りの人達に怯えているときなんかは、キイロも良男も本当に猫のような、小さな生き物の顔をしていて(笑)。台詞やシチュエーションが自然と私の中の“猫らしさ”を引き出してくれたんだなと完成を観て改めて思いました。
吉沢:僕も同じで、良男って目の前にある情報しか入ってこないというか、沙織と会話をしている最中でも餌を出されたら餌しか見えないところが猫っぽいなと(笑)。だから演じていても自然と猫になっていたような気がします。人間は同時に色んなことを考えながら生きていますけど、目の前の物だけに集中してしまうのが動物らしさなんじゃないかと。そういう動物的な生き方にある意味憧れながら演じていました。
──屋外ロケと舞台の上のセットでの映像が入り交じるという斬新な作品ですが、撮影は大変だったのではありませんか?
沢尻:やはり実際に群馬会館(群馬県内最古の公会堂)の舞台に上がってセットを見るまでは想像できないことばかりだったので、撮影前の稽古とは違ってセットが動く中でのお芝居は結構タイミングが難しかったです。なかなか感覚を掴めなくて苦労しましたけど、今まで経験したことのない手法だったので楽しみながら演じさせて頂きました。
コムアイ:わたしは割とリラックスしている状態で参加できたので、とにかく毎日楽しかったです。群馬会館のある前橋に5日間ぐらい滞在していて、撮影が早く終わった日は“みんなで飲みましょう!”と猫を演じた猫組キャストで飲みに行ったり(笑)。老猫を演じた猫組最年長の岩松了さんが「人間というのは誰かに対しての反応で生きてるから、本質なんてないんだよ」とお話してくださるんですけど、10代や20代の若い役者さん達が「そうですよね」と何故か共感したりしていて面白かったです(笑)。
吉沢:撮影では大変なことももちろんありましたけど、それより楽しいと感じることのほうが多かったように思います。役作りに関してもクランクイン前の稽古期間中に猫の動きを監督が指導してくださったので、そこでしっかりと固めることができたというか。現場に入ってからはそんなに苦労することはなかったように思います。…歌うシーン以外は…(苦笑)。
コムアイ:お芝居で歌い出すのって勇気がいるよね(笑)。でも吉沢さんの歌うシーンは毎回完璧だったよ!
吉沢:コムアイさんは僕が歌うところすごい見てましたよね(笑)。
コムアイ:あはははは!
沢尻:この3人はそれぞれ歌うシーンがあるので、そこも見どころになっています(笑)。そういえば苦労したシーンでひとつ思い出したんですけど、良男を撫でるシーンで、本物の猫ならスムーズに撫でられるのに、吉沢くんは全身毛で覆われているわけじゃないからすごく撫でづらかったです(笑)。
──(笑)。猫の良男と会話するシーンではどんなことに気をつけましたか?
沢尻:沙織と良男のシーンでは一見会話が成立しているんだけど、それと同時に妄想している沙織が独り言を言っているようにも見せなきゃいけないというすごく微妙な加減が難しかったので、監督からの指示に応じたり自分で探り探り演じたりしていました。お互いに目を見ずに会話しているので、妄想と現実をうまく融合できたんじゃないかなと思っています。
──コムアイさんと吉沢さんには犬童監督からどんな演出があったのでしょうか?
コムアイ:リハや稽古の時に犬童監督が「ここ一瞬早かったからもう少しワンテンポ遅く動いて」とか「ここは早く動いて」という細かい指示をくださったんですけど、とても物腰が柔らかくて現場で常に穏やかなんです。スタッフさんや役者に監督が意見を求めることも多かったので、全員が心をひとつにして作品のことをしっかりと考えていたのも印象的でした。
吉沢:監督は猫にものすごく詳しいので、良男に関するひとつひとつの演出が腑に落ちるんです。例えば、沙織にお腹を撫でられるシーンで「猫は気持ちよくなり過ぎると嫌がるんだよ」と監督がおっしゃったので、撫でられてる最中にパッと離れる動きをしてみたり。僕は猫を飼ったことがないので“なるほど〜”と思いながら演じていました。
──では最後の質問になりますが、飼っているペットが人間だったらいいなという瞬間はありますか?
コムアイ:猫を飼ってるんですけど、ずっと猫のままでいて欲しいです。だって、もしもわたしのことを“なんかまた絡んできたよ〜めんどくせえな〜”なんて思ってたらショックじゃないですか(笑)。
吉沢:そうなんですよね〜(笑)!僕は犬を飼ってるんですけど、もし人間みたいに言葉が話せたら色々面倒なことを言ってきそうなので犬のままでいて欲しいです(笑)。
沢尻:うちは犬を2匹飼っていて、さらに今回良男を演じた猫ちゃんを引き取って今一緒に暮らしてるんですけど、もし彼らが言葉を話せるなら沢山色んなことを話してみたいです。たとえめんどくさいことを言われても気にしません(笑)!
映画『猫は抱くもの』は6月23日(土)より全国公開
©2018 『猫は抱くもの』製作委員会
取材:奥村百恵/撮影:中村好伸