“監督で観る” “俳優で観る”映画の楽しみ方。今注目の人やこれから注目すべき映画監督・俳優について紹介する【監督・俳優のすすめ】。Vol.5は今最も“旬”な映画監督・園子温。
Keyword 1:“映画界の異端児”からメジャー監督へ
園子温の勢いが止まらない。
現在公開中の『新宿スワン』を皮切りに、『ラブ&ピース』『リアル鬼ごっこ』『みんな!エスパーだよ!』と年内までに4本の公開作を控え、マシンガンのごとく映画を撮りまくっている。
挑発的なテーマ、洪水のように溢れる台詞、これでもかという血と暴力――日本映画の中でも異彩を放つ作風から、“映画界の異端児” “アングラ” “カルト的人気”などという言葉で表現されることが多かった園監督。だがそれも変化を見せている。『新宿スワン』のようなスター揃いの大型映画の監督を担い、昨今では「園子温監督の映画に出てみたい」という俳優からのラブコールも少なくない。海外から高い評価を受けることもしばしばで、気がつけば日本映画界を牽引する“メジャー”監督になっている。
Keyword 2:“王道”を壊し続ける
"もしも映画に文法があるのなら、そんなものぶっ壊してしまえ。
もしもまだわずかに「映画的」なるものが自分に潜んでいるとすれば、それもぶっ壊してしまえ。
映画がバレエや歌舞伎や能や日本画や、そんな伝統芸能に成り下がったのなら、とっとと捨ててやる。そんな気持ちで映画を撮ってきた。” ――著書「非道に生きる」より
女子高生54人が一斉に駅のホームから飛び降り自殺をするという前代未聞のオープニングで世間に衝撃を与えた『自殺サークル』。理想の女性像を追い求める主人公が、本当の愛を知るまでを描いた約4時間にも及ぶ異色の純愛映画『愛のむきだし』。「埼玉愛犬家連続殺人事件」や「東電OL殺人事件」といった実際に起きた事件をベースにした『冷たい熱帯魚』に『恋の罪』。性や暴力、社会問題やあらゆるタブーを題材に真正面から切り込んでゆく作品が多いことから、園子温の映画はよく「問題作」と言われる。
だが、その根底にあるのは、日本映画を変えてやるぞの精神。人気コミックやベストセラー小説の映画化やリメイクなど、「確実にヒットが見込める映画」ばかりでオリジナルと呼べる作品が減っている日本映画界への問題提起とも言える。世界から取り残され孤立しつつあるこの現状を打破したい。生ぬるい映画を作る気など毛頭ない。あくまで世界から注目される映画を目指す。
そのためには新人・ベテランを問わず、役者の未知の力を引き出す努力も惜しまない。実際、『紀子の食卓』では吉高由里子を、『愛のむきだし』では満島ひかりを驚異の新人女優として世に知らしめ、『ヒミズ』では染谷将太と二階堂ふみを第68回ヴェネチア国際映画祭でマルチェロ・マストロヤンニ賞(最優秀新人俳優賞)W受賞へと導いている。
そしてとにかく大量の映画を作る。日本映画界がとらわれ続けている「映画のセオリー」を壊して壊して壊しまくる。誰もがその存在を見て見ぬ振りできなくなるまで“園子温映画”を量産し、自ら時代に認めさせるのだ。
Keyword 3:新たなステージへ
先述の通り、2015年は園子温祭りだ。そして公開作のどれもが「新たなる挑戦」と言える。新宿・歌舞伎町を舞台にスカウトマンたちの熾烈な争いを描いた和久井健の人気漫画を原作に、脚本を放送作家として活躍する鈴木おさむ、出演陣に綾野剛・山田孝之・伊勢谷友介・沢尻エリカら豪華スターを迎えた『新宿スワン』。これまで監督が撮ってきた類の映画とは対極の「超大型ビジネス映画」を相手に、自分が書いていない脚本でどこまで“らしさ”を出せるかも注目だ。
6月27日公開の『ラブ&ピース』は、監督自身が25年前に描いたオリジナル脚本を、ほぼ当時のままの内容で蘇らせたという愛と感動のファンタジー(性的・暴力的描写なしの子供も見られる映倫G指定というのも異例!)。自身初の特撮に挑戦している点も見逃せない。主演は長谷川博己と麻生久美子。
監督&キャスト陣(長谷川博己、麻生久美子ほか)のコメントはこちら
≫ 園子温監督最新作は怪獣特撮映画『ラブ&ピース』 長谷川博己、麻生久美子ら出演
さらにその翌月の7月11日に公開されるのは累計発行部数200万部を突破する大ベストセラーとなり、これまでに5度映画化された『リアル鬼ごっこ』。「何かが何かに追われる」という設定のみを活かし、鬼に狙われる女子高生役にトリンドル玲奈、篠田麻里子、真野恵里菜のトリプルヒロインで贈る完全なオリジナル脚本だ。
9月4日にはテレビ東京の「ドラマ24」枠で連続ドラマ化された染谷将太主演の青春コメディの劇場版『映画 みんな!エスパーだよ!』が公開。それ以降も『ヒミズ』『希望の国』に続いて福島を舞台にした、オリジナルストーリーの自主制作映画『ひそひそ星』が控えており、さらにはアメリカ資本の映画制作を始めるという話も。
大型商業映画から原点回帰とも言える作品まで、園子温の“破壊活動”からまだまだ目が離せない。
園子温
1961年生まれ、愛知県出身。1987年に『男の花道』でPFFグランプリを受賞。PFFスカラシップ作品『自転車吐息』(90)は、第41回ベルリン国際映画祭正式招待のほか、30を超える映画祭で上映された。『愛のむきだし』(08)で第59回ベルリン国際映画祭カリガリ賞・国際批評家連盟賞を受賞し、『冷たい熱帯魚』(11)では第67回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ・コンペティション部門・第35回トロント国際映画祭ヴァンガード部門正式出品、『恋の罪』(11)が第64回カンヌ国際映画祭監督週間で上映、『地獄でなぜ悪い』(13)では第70回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門正式出品・第38回トロント国際映画祭ミッドナイト・マッドネス部門観客賞受賞と、世界的に最も評価されている日本人監督の一人。
『新宿スワン』
5月30日(土)より公開中
公式サイト:http://shinjuku-swan.jp
【監督】園子温
【原案】和久井健『新宿スワン』(講談社「ヤングマガジン」刊)
【出演】綾野剛、山田孝之、沢尻エリカ、金子ノブアキ、深水元基、村上淳、久保田悠来、真野恵里菜、安田顕、山田優、豊原功補、吉田鋼太郎、伊勢谷友介
(2015/日本)
『ラブ&ピース』
6月27日(土)よりTOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー
公式サイト:http://love-peace.asmik-ace.co.jp
【監督・脚本】園子温
【原案】「ラブ&ピース」園子温 幻冬舎刊
【出演】長谷川博己、麻生久美子、渋川清彦、奥野瑛太、マキタスポーツ、深水元基、手塚とおる、松田美由紀 <声の出演>星野源、中川翔子、犬山イヌコ、大谷育江、西田敏行
(2015/日本)
『リアル鬼ごっこ』
7月11日(土)より全国ロードショー
公式サイト:http://realonigokko.com
【監督・脚本】園子温
【原案】山田悠介「リアル鬼ごっこ」(幻冬舎文庫・文芸社刊)
【出演】トリンドル玲奈、篠田麻里子、真野恵里菜
(2015/日本)
©2015「新宿スワン」製作委員会 ©「ラブ&ピース」製作委員会 ©2015「リアル鬼ごっこ」学級委員会