実写映画『ルパン三世』や『あずみ』などを大ヒットに導き、ハリウッドを拠点に活躍する北村龍平監督が、『この世界の片隅に』のプロデューサー真木太郎とタッグを組んだ新作『ダウンレンジ』。物語は大学生6人組が相乗りで山道を車で横断しているとタイヤがパンクするところから始まる。そのパンクはアクシデントではなく銃撃によるもので、彼らは見えない「何か」の標的になっていることに気づくという展開のソリッドシチュエーションスリラーとなっている。約4年ぶりに新作が日本公開となった北村監督に今作の製作秘話や仕事に対するこだわりなどを聞いた。
──大ヒットした『ルパン三世』から約4年ぶりに日本での新作公開となりますが、ハリウッドで映画を撮るにはもの凄く時間がかかるということなのでしょうか?
北村:僕はハリウッドに拠点を移してから11年経ちますが、その期間に撮った『ルパン三世』が思った以上に長くかかりまして、2年ぐらいLAに戻れなかったんです。結果的に『ルパン三世』は大ヒットしたので良かったんですけど、ハリウッドというところは毎日世界中から才能のある人がエントリーする世界一過酷なレースが行われている場所なんですよね。それなのに僕は2年も日本にいたもんだから、7年かけて築き上げたものがずっとピットインしてる状態みたいになってしまって…。
北村:ハリウッドはひとつの企画が実際に撮影に至るまでに途方も無く時間がかかるんですけど、例えばいま日本でもヒットしている『MEG ザ・モンスター』なんか最初に僕が本を読んで知ったのは97年ですからね(笑)。当時から話題にはなっていて、だけどそこから映画化まで20年かかるんですよ。僕がいま手掛けている作品も10年間かかっているのもありますし、始まると思ったら始まらないとかそういう世界なんです。でも文句を言ってもしょうがないし、進まない中でもどんどんやってやろうと。どの企画が動くかわからないですしね。
──無防備な人達が見えない相手から銃で狙われるという物語をしっかりとエンターテイメント作品として見せていくというのが面白かったのですが、どんなきっかけで今作の発想を思いついたのでしょうか?
北村:まず、ハリウッドはGOが出ると自動的にすべてが大事になる世界なんですけど、僕としては借金しまくって撮った自主映画の『VERSUS』で最初に世の中に多く知られることになって、それがあったから『あずみ』に抜擢されて、更にハリウッドでの第一作『ミッドナイト・ミート・トレイン』へと繋がっていきましたが、未だに世界で僕の名が一番知られたのは『VERSUS』なんです。自主映画がそんなに広がるならもう一度それをやったほうがいいんじゃないかと思って、割と低予算で強烈なワンアイデアでぶちかませるような映画の企画を考えていたんです。
北村:それで、僕が一番才能があると思っている脚本家のジョーイ・オブライアンと飯を食しながらその話をしていたらジョーイが“人がスナイパーで狙われたら怖くないか”と。スナイパーと呼ばれる人達がどれだけの戦闘能力を持っているか僕も知っていましたし、見えない遠い場所から撃ってくるのはめちゃくちゃ怖いよなと確かに思いました。でも戦場でそういう恐怖を描いた『フルメタル・ジャケット』という映画はあるから、だったら普通の無防備な人達がスナイパーに狙われたら絶望だよねという話になって、そこから今作の企画がスタートしました。
──『この世界の片隅に』のプロデューサー真木太郎さんが今作のプロデューサーを務められていてとても驚きました。
北村:確かにどうしてこんな過激な映画を『この世界の片隅に』の真木太郎プロデューサーと一緒にやろうと思ったのかと誰もが言いますよ(笑)。でもそこが僕の型破りな発想というか。実はアメリカのプロデューサーともこの企画を進めようとしたことがあって、決断が早くて契約書とチェック(小切手)にすぐにサインしろと言われるんですけど、いざ契約書を確認すると話し合ったことじゃない内容に変わってるんですよ。友達だと思ってたのにこういうことするんだ〜と(笑)。
北村:それで“金なんかいらねえよバカ野郎”とか思いながら別のプロデューサーに話して、すると“最高に面白いけどもっと最高にしようぜ!スナイパーにターバン巻かせよう!”なんて言い出すから腹が立っちゃって“それならスナイパーは白人にしてやるよ!”って(笑)。クリエイティブに関しては100%僕がプロデュースしたかったので、それ以外のことをバックアップしてくれる人は真木さん以外にいないんじゃないかと思いついたんです。もちろん真木さんは『東京ゴッドファーザーズ』などアニメのイメージはありますけど、僕は彼がそういうカテゴリーにこだわらずに面白いことは参加してくれる人だと思っていたので国際電話をかけて3分で“面白い!やろう!”と真木さんが言ってくれて決まりましたね。
──真木さんとは以前からお知り合いだったのですか?
北村:僕が金がないころよく飯を食わせてもらってました。ただ作品は一緒に作ったことがなくて、今回ご一緒して本当に凄い方だなと実感しました。日本人の監督と日本人のプロデューサーがハリウッドで映画を撮るというのはある意味革新的だと思うんです。簡単じゃないけど僕のコネクションと経験値とノウハウならできると。それでトロント国際映画祭の中でも10枠ぐらいしかないミッドナイトマッドネスという部門(世界中のアクションやホラー、SFが出品される)で上映される映画にするよと真木さんに言ったら凄くのってくれて。幸いにも去年ミッドナイトマッドネス部門に出品されたので、そういった意味でも今作でお互いに信頼関係が作れたのは凄く大きかったと思います。
──日本では漫画原作の実写化が多くなかなかオリジナル脚本の映画が作りづらい状況になっています。北村監督は今の日本映画に関してどう思いますか?
北村:ハリウッドも日本映画もどちらにも良い面と悪い面はありますし、悪い面の文句を言ってもしょうがないんですよね。それに僕は日本で映画を撮ってるときも戦ってましたし、僕のアイデアをやらせてくれるプロデューサーも日本にいました。ただ、脚本やプロデュース、監督みんながアクセルを踏み込んで他と違ったことをしないとやっぱりぶち抜けた映画はなかなか日本では撮りづらいとも思います。ベストセラーや人気漫画の実写化のほうがリスクは少ないですからね。だからと言って同じようなフォーマットで色々シャッフルすることでしか日本映画業界が成り立たないのもまずい気がします。僕には幸いにも理解者がいるので、そういった色んな規制の中でもチャレンジングなことができるのはありがたいと思っています。
──最後に北村監督の仕事へのこだわりをお聞かせ頂けますか。
北村:今までやりたくないことはやったことがないのが誇りというか、仕事だけど仕事ではないんです。人生の膨大なエネルギーや時間を捧げる以上は自分のやりたいことしかやりたくないので、それを貫いて生きていきたいですし、ハリウッドと日本、あまり場所はこだわらずに作品を撮ろうと思っています。あとはハリウッドに行きたいと思っている若者を応援したいですね。今作は北島翔平君が編集してくれてるんですけど、彼は学生の頃に僕に憧れてると言って会いにきて、そのあと色々な経験を経て『ルパン三世』で素晴らしい仕事をしてくれたので今回もお願いしたんです。次のハリウッド映画も北島君が編集で入る予定で。だから若い人達にもなんだってできるんだよと言いたい。ただ、それを実現するのは簡単じゃないよとも言っておきたいですね。めちゃくちゃ大変だけどやれないことはないよと(笑)。
映画『ダウンレンジ』は9月15日(土)より新宿武蔵野館にて2週間限定レイトショー公開中
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取材:奥村百恵