7月22日(祝・木)より公開となるアニメーション映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』の試写会が13日に行われ
「サイコト」はシティポップの名盤のビジュアルから始まった
もともと学⽣時代までミュージシャンを⽬指していたというイシグロ監督が、アニメーション⾳楽・映像制作を⾏うフライング・ドッグの10周年のオリジナル作品の企画と出会ったというのはもはや運命というほかないのかもしれない。
「お話を頂いたときには⾳楽を使ったオリジナルものというオファー。バンドが出てくるとか、アイドルが出てくるという話ではなく、紆余曲折あったものの⽇常をベースにした⻘春物語になりました。作品を構成するあらゆる要素が⾳楽がネタになっていること。ここに注⼒しました。」とイシグロ監督。
映画のルックについて「作り始めた2015年、今ほどではないですがシティポップのリバイバルブームがわきおこっておりまして、かつ鈴⽊英⼈さん(イラストレーター:⼭下達郎「FOR YOU」のジャケットなど)、わたせせいぞうさん(「ハートカクテル」漫画家、イラストレーター)、永井博さん(グラフィックデザイナー:⼤瀧詠⼀「A LONG VACATION」のジャケットなど)らの絵ですよね。シルエットで捉えてパキッとした⾊をのせるのがかっこいい。シティポップ調のアートでやるっていうのは ⾳楽ものとして成り⽴つ正しい⽂脈だと思ってピックアップしました。作品が形作られていく中に、シティポップという⽂化をどんどん放り込んでいった。最初の⼊り⼝はビジュアルでしたね。⼤貫さん・ネバヤンに⾳楽を発注するのもビジュアルの情報に引っ張られるところが⼤きかったと思います」
20代の時には受け付けなかった80年代の綺麗すぎる⾳。40代の今、その凄さに気付いた
今はサブスクや配信で⾳楽をきく機会が増えると同時に、レコードで⾳楽を聞く⼈も増え、アナログ盤の売り上げも伸びているそうだが「意識的ではない記憶と⾳楽は紐づいているという話が脚本家の佐藤⼤さんから出たんですよね。レコードというのは記憶とともに織り込まれている、そしてそれはフィジカルのものだから割れたら聞けなくなるとか、脚本の中で⾯⽩い要素として上がってきたんですよね。」
映画の中には“ピクチャーレコード”が登場するが「絵としてキャッチーなんですよね。レコードを知らない⼈が⾒たらそれがレコードなのかわからない。若い世代にも聞いてみたらそれを⾳楽を聞くものだとは思って⾒ない、単なる飾りや写真として捉えるんですけど、知ってる⼈間からするとレコード時計なんかもあったりするから上の世代ならわかるという仕掛けとしても使える」
村尾から劇中のキャラクターたちのレコードの持ち⽅が世代によって全く違うことを指摘されると「レコード知らない世代は結構ベタベタ触ったり持たせたりしてるんですよね。最後の⽅に出てくるフジヤマさんはちゃんと側⾯を持って(笑)あのこだわりは分かってもらえると嬉しい!」
「サイコト」特選シティポップ・プレイリスト!
また、今回特別にイシグロ監督にシティポップを選曲してもらった。テーマは「スマイルが聴いたら“かわいい!”と⾔いそうなシティポップ5選!」⾳楽に造詣が深いわけではないが、“かわいい”に敏感な⼥の⼦のお気に⼊りになりそうな曲とは?
1.⼤貫妙⼦「⾊彩都市」
イシグロ:教授のアレンジが最⾼なんです!アルバム「Cliche」に⼊ってるんですけど、バンドやってたときにメンバーから借りて、そこで出会いました。⾳の作り⽅が80年代前半の時代を感じますよね。そして歌詞の内容に【都市】が出てこないんですよね。⾃分がいる場所=都市、そこが彩られていくということかなと解釈してます。
2.⼭下達郎「LOVELAND ISLAND」
イシグロ:「Sparkle」とどっちにするか迷ったんですけど、“カワイイ”のはこっちかなと。⾃分は⾼校時代に聞いてましたが、当時は⾳が綺麗すぎてわからなかったんです。今聞くとすっごくいいですけどね。シティポップといえばこのイメージ。
3.EPO「う、ふ、ふ、ふ」
イシグロ:カワイイじゃないですか!リアルタイムで⾒てた化粧品のCMの印象が強いです。3年前くらいにCMでリバイバルしているはずです。そのときに「やっぱ今シティポップブームきてんな!」と感じたことがありました(笑)
4.⼤瀧詠⼀「君は天然⾊」
イシグロ:ド直球すぎてもうちょっとマニアックな⽅向にいった⽅がいいかなと迷ったんですけど、スマイルが選ぶカワイイはこれくらいわかりやすい、カラッとするようなもののほうが届くんじゃないかなと。僕が聞いたのはレコードで、もうアニメの仕事をしていて演出になるかならないかの29歳ごろのことでした。実は⻘春時代に聞いた曲ではないんですけどね。この曲もCMで都度都度リバイバルされますよね。
5.Ginger Root「Loretta」
イシグロ:この曲最近よく聞いていて、ヤマタツ宅録失敗してる⾳みたいな(笑)リバーブの掛け⽅失敗してるみたいなモコモコ感がすごいんですよね(笑)でもかっこいいんですよ。アジア系のアメリカ⼈でカリフォルニア出⾝の⼈で。メジャーアーティストではなくインディーズなのかな?半年くらい前にSpotifyでおすすめされました。マルチアーティストで全部演奏するし、PVも⾃分で監督して撮っちゃう、すごい才能あるんですよね。もっと世界的に広がっていきそうな予感がします。
Ginger Rootの話題から「シティポップは海外から⽕がついた⽇本独⾃の⾳楽ですが、Ginger Rootはシティポップ に影響を受けた<新世代>という気がしますね」と村尾が切り出すと、主題歌を担当したnever young beachやシティ ポップが及ぼしたカルチャーへの影響についての話題へ。イシグロ監督は「(主題歌の)ネバヤンをシティポップのに括りにはしないですが、細野晴⾂さんから連綿と続いているものを受け継いでいますから、彼らの考えを聞くと60年代・70年代の⾳楽は宝の⼭だといってました。機材も含めて。僕もその感覚はわかります。今のこの世の中にはない、⼈間が演奏していた⾳楽というのを感じて、今の⾳楽になんとか取り込もうとしているというのはすごく⾯⽩いと感じます。」
その<感覚>は作品⾃⾝に影響した部分はあるか?と聞かれるとイシグロ監督は「あるかもなあ・・・作画のアニメを作っているときに、線がちょっと掠れているような形の処理をしているんです。今デジタル作画だとそれは起きないんですけど、昔は鉛筆で書いて、しかも⾊を塗る作業は実際絵の具で塗ってたんですね。トレース線というのを転写するんですよ。カーボン⽤紙から透明なセルに転写するときにヨレるんです。そのヨレが良い味になって、作品に彩りを加える効果があるんですけど、そういうものをデジタルでも再現したいなと思った感覚といったものは60年代の⾳楽とか機材、70年代⾳楽、80年代のシティポップから得ようとするマインドにつながっている気がします」と語った。
映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』は7月22日(祝・木)より全国公開
(C)2020フライングドッグ/サイダーのように言葉が湧き上がる製作委員会