「SUPPORT EIGA PEOPLE ON THE LAND.〜映画に関わるすべての人々をサポートする〜」をビジョンとして掲げる映画ランド。そんな弊社が、映画界で活躍する監督・スタッフ・役者にお話を伺う。
俳優でありながら、初長編映画監督作『blank13』が国内外の映画祭で8冠を獲得した齊藤工監督の映画『スイート・マイホーム』が9月1日より公開される。本作で主人公の兄・清沢聡役を演じるのは、マーティン・スコセッシ監督『沈黙-サイレンス-』や18年ぶりに長編邦画単独主演を務めた『Sin Clock』、LINE NEWS VISION『上下関係』など今も精力的に活動し続ける窪塚洋介。そんな窪塚に今作についてお話を伺った。
窪塚洋介
KUBOZUKA YOSUKE
1979年生まれ、神奈川県出身。
1995年俳優デビュー。2002年「GO」で第25回日本アカデミー賞新人賞と史上最年少での最優秀主演男優賞を受賞。2017年にマーティン・スコセッシ監督作 『沈黙-サイレンス-』でハリウッドデビューを果たし、海外作品にも積極的に参加。主な映画出演作に『最初の晩餐』(19)、『ファーストラヴ』『全員切腹』(21)、『Sin Clock』(23)があり、今後は『火の鳥 エデンの花』、『次元を超える TRANSCENDING DIMENSIONS』などの公開を控えている。
齊藤監督にゆだねる
――原作を読んだ際の感想をお聞かせください
窪塚:人間って怖いなと。歯止めが効かなくなった人間の怖さを、身近な距離感で描いている。こんなこと本当に起こるの?という話ではあるけれど、人間の欲望の向こう側みたいな、成れの果てみたいなことをリアリティを持って描いている作品です。まあお化けが怖い、暴力が怖い、そういうことはあれど、結局自分の中にある心のあり方みたいなものが一番怖い、というのを上手に描いてらっしゃるなと思いました。
――何物かの視線に怯えて引きこもる兄、清沢聡(きよさわさとる)という役を演じてみていかがでしたか?
窪塚:普段演じることがほとんどなかったタイプの役だったので、脚本を読んだ時にすごく面白そうだなって。このタイプってくくっちゃうのもなんですが。俺だったらこういう人間をどういうふうに演じられるのか、どこまでこの作品の素材としてできることがあるのか、というのは楽しみな反面、どこまでやっていいんだろう、どういう風にやったらいいんだろうという怖さは正直あって。それは今回、齊藤監督にゆだねたというか。撮影初日に、自分が思ってる感じでやるけど、もしその方向ではないということであれば、なんの忖度もなしにどんどん言ってね、と話してから最初のシーンを撮ったんですよ。なのでそのさじ加減というのは彼に任せて、不安を拭ってやるべきことをやったという感じですね。
――作中で「あいつに見つかったら終わりだ」と警戒している場面がありますが、窪塚さんの中で「あいつ」はどんなイメージでしたか?
窪塚:具体的に姿があって、ということではないですが、自分に置き換えていうと、20代前半にいわゆるマスメディアのパパラッチを気にすると全員そう見える、というのを感じていた時があって。あれ、あいつ怪しいなって思い始めると、この人も怪しいなってなって、そうするともう疑心暗鬼みたいに全員怪しく見えてくるということがあったんですよ。
最初、「あいつら」って言ってたり、「あいつ」って言ってバラつきがあったので、これ統一した方がよくない?って監督とも相談したんだけど、やっぱり統一しなくていいと。社会もそうじゃないですか。“社会さん” という人はいなくて、みんなの総称を社会って言っている。具体的に人の顔が思い浮かんで社会って言ってる時と、総称して社会って言ってる時とあるような感じで、漠然とした闇だったり、自分たちに害を与えてくるものを警戒している感じなのかなと。
みんなの腸内環境を整える監督
――作品は怖い話ですが、齊藤監督の演出はとても心地よかったそうですね
窪塚:監督も演者なので、演者の気持ちというのをすごく理解できるじゃないですか。かつ映画が好きで、裏方として監督という立ち位置でスタッフの気持ちもよくわかっているので、そのバランス感覚がいい。もともと自然体な人で、出過ぎることもせず、出なさすぎることもなくという絶妙なところにいる人。それをそのまま現場でもそういう風にいる、ということが演者側にもスタッフ側にもいい影響を及ぼしていました。
あとは、腸活みたいなことが僕も好きなんですけど、監督が腹巻を現場でみんなに配ったり、味噌汁がいつも現場にあったりという感じで、みんなの腸内環境を考えてくれていました。やっぱり、ロックミュージシャンもヒップホッパーもクラシックをやっている人も、分け隔てなく腸が大事なんですよね。アメリカ人もブラジル人も、日本人も宇宙人も(笑)、恐らく腸は大事だと思います。そういう根本的なポテンシャルを上げる、パフォーマンスを上げるみたいなことにも着眼して現場を作っていました。
プロデューサーたちと掛け合って現場にちゃんと形として落とし込んでるという姿も素敵だなと思ったし、そういう意味での心地よさもありました。安心感というか。この穏やかさが画面に出ちゃうんじゃないかっていう気もしたけど、それはなかったですね。
――今まで齊藤監督とはプライベートでも交流がありましたか?
窪塚:一番最初に会ったのはCMで、その時からの縁なんですよ。そこからLINEをするようになって。俺がやってるYouTubeの配信で、たまに話している腸活の話や微生物の話にレスポンスをくれてたんですよ。「僕もホントそう思います」「知れてよかったです」というような話をLINEでくれて、誕生日プレゼントにおすすめのギフトを送ってくれたりといった交流はありました。
――齊藤組をどう感じましたか?
窪塚:齊藤監督もそうだし窪田もそうだけれど、みんなそれぞれにすごく敬意を払えるタイプの人間だと思うんですよね。自分もそうありたいと思ってきたし、スタッフも監督も俳優も同じ板の上に乗ってるって思ってる。
別に俳優だからちやほやされるわけじゃなくて、例えば汗をかかれたら現場が止まっちゃうから日傘をさしてくれたり、涼しいところにいたりする。偉いからじゃないということは、我々は理解していると思っていて。だからみんな気持ちよく敬意を持ち合って一緒にクリエーションできたと思います。
それって普段の日常生活もやっぱりそうで。全くフラットだと思うんですよ。そういう感じに思ってるとすごくニュートラルに物事を見ることができて、自分のためにもなるし、お互いに同じ空間を共有しているなら、気持ちよく過ごすためにすごく大事なことだと思います。
ちょうどいい温度を作る
――窪田さんとの共演はいかがでしたか?
窪塚:もちろん芝居もすごくいいんですが。俺、現場を作るのって割と最近になって、30歳過ぎてから意識的にできるようになったんですよ。その前の20代前半って超自己中な感じでいってたと思うんです。やっぱり、自分が芝居をしやすい状況を作るということから現場を作る。それが自己中心的じゃなくて、それこそ齊藤監督の味噌汁みたいに、みんなのポテンシャルが上がるような温度にするっていう。お風呂で言ったら35℃って少々ぬるいじゃないですか。でも45℃ってちょっと熱い。40℃くらいが適温だとしたら、全然集中してない現場で、進むのが遅くてというのが35℃くらいだとして、かつかつに緊張しちゃってて、全然パフォーマンスが出ないみたいなのが45℃くらい。自分の態度だったり、言葉でもいいし、行動でもいいと思うけれど、ちょうどいい温度を作るという作業が大事だなと思うようになったんですよ。
それを窪田も齊藤監督も自然とやってるなと思って。今回子役が泣いちゃったり、寝ちゃったりして、結構大変で。でも誰も嫌な顔をせずにやってるのを見て、すごい忍耐力だなと思って。腸が整ってるなと(笑)。俺もまだまだだなって。それを自然とやってたんで。ちなみに窪田も腸活に詳しいんですよ。このツートップで回っていくんだったら大丈夫だなと思いました。本当に優しく懐深く子役と接しているのを見た時にすごいなと思いました。
今作とこれから
――来年、松田龍平さんとダブル主演の『次元を超える』が公開予定ですね。意気込みをお聞かせください
窪塚:そうですね。脚本はもう一回変わると聞いてますが、豊田さんの世界観で、豊田さん的な火の鳥らしいので。全部ほぼほぼ関わらせてもらってるから、集大成じゃないけれど、未来編をいい形で着地させねばという感じの使命感があります。
――W主演の松田さんと共演することについてはいかがですか?
窪塚:共演してみたい俳優でした。豊田さんの作品でニアミス共演があるけれど、芝居で絡んでないので。今回も最初は芝居の絡みがなかったので、それは絶対あった方がいいんじゃないかという方向でもう一回脚本を練るというから、それを楽しみに待ってるところなんです。龍平はプライベートで会う方が多いので、仕事場で四つに組んで仕事できるのは楽しみです。
――最後に記事を読んでいる方に今作について、メッセージをお願いします
窪塚:冒頭でも言ったんだけれど、人間の欲望が行き着く先を間違えると、こういう場所にたどり着くというストーリー。自分の私生活にどこか投影してしまったり、この映画の方が入り込んできたりすることもあると思うんだけれど、それを身近に感じて映画を観てくれたらより人間の怖さ、闇の深さを体感すると思うので、ぜひ怖がって観てください。
(取材・写真:曽根真弘/ヘアメイク:佐藤修司(Botanica makehair))
『スイート・マイホーム』は9月1日(金)全国公開
監督:齊藤 工
出演:窪田正孝/蓮佛美沙子/奈緒/中島 歩/里々佳/吉田健悟/磯村アメリ/松角洋平/岩谷健司/根岸季衣/窪塚洋介 ほか
配給:日活/東京テアトル
©2023『スイート・マイホーム』製作委員会 ©神津凛子/講談社
公式サイト:https://sweetmyhome.jp/
公式X(旧Twitter):@sweetmyhome_jp
公式Instagram:sweetmyhome_jp