『更年奇的な彼女』クァク・ジェヨン監督 インタビュー「強く見えるけど実は弱い面を持っている女性の描写がすごく好き」

日韓両国で爆発的なヒットを記録し、日本公開から10年以上を経た今もなおラブコメディの金字塔として燦然と輝く『猟奇的な彼女』。綾瀬はるか×小出恵介の日本映画『僕の彼女はサイボーグ』に続き、“彼女シリーズ3部作”の完結編にあたるクァク・ジェヨン監督最新作『更年奇的な彼女』が4月8日より全国公開される。

更年奇的な彼女

結婚を夢見るも、恋のトラウマから「若年性更年期」になってしまう女の子チー・ジアと、同級生の中で“最も冴えない男”ユアンとの恋模様を描く感動作。チー・ジアの吹き替えを藤原紀香が務め、主題歌「君がそばで」を華原朋美が歌う。


更年奇的な彼女

──約8年ぶりの来日ですが、久しぶりの日本はいかがですか。

クァク監督:日本には何度も来ているんです。去年も日本で映画の撮影をしました。でも映画の公開プロモーションとして来るのは8年ぶりくらいになりますね。本当に時間が経つのが速いよ。

──『猟奇的な彼女』『僕の彼女はサイボーグ』、そして完結編『更年奇的な彼女』と彼女シリーズ3部作という位置付けですが、どのようなアイデアから構想したのでしょうか。

クァク監督:結果としてそういう位置付けになった。私自身としては考えてもいなかったんです。制作の担当の方が「中国における猟奇シリーズだ」と念頭に置いて手掛けられた。もともとは中国のシナリオ作家の方が最初に書いたのですが、それを書いたのが女性警察官の方だったんです。その最初の内容っていうのが、ある女性がいて、ある男性を愛していて、卒業式の時にウエディングドレスを着てプロポーズをする。しかし、断られてしまい、それが原因で更年期が起きてしまって苦しむ。それを暖かく見守ってくれる男性がいるというストーリーだった。その話をいただいて、少しずつアイデアを加えながらアップデートしていきました。いま彼女は女性警察官を辞めている。この映画が成功したので、いまはシナリオ作家として活動する傍ら小説なども書かれています。

──女性警察官のアイデアから生まれたんですね。ヒロインが「若年性更年期」という今までにない設定ですが、監督はその病状についてどのあたりまで知っていたんでしょうか。

クァク監督:更年期はさすがに知っていたけど、若年性更年期は知らなかったんです。中国では「早更」と書くんですが、こういう言葉はもともと存在してなかったんです。この映画をきっかけに作られた言葉です。


更年奇的な彼女

──楽しい表情から一転、急に寂しい表情を見せているヒロインのジョウ・シュンさんの演技が素晴らしかったです。彼女のどこに惹かれてキャスティングしたのでしょうか。

クァク監督:実は最初、ジョウ・シュンさんは考えていなかったんです。ですが、投資してくださった会社の方から「演技が一番上手い女優さんで、中国では4大女優のひとりで経験も多い、素晴らしい女優さん」だと紹介がありました。私自身、演技が上手くて有名な女優さんは最初は望んでいなかった。上海で食事をしながら会う機会があって、彼女はまだ結婚前にもかかわらず、更年期のこととかすごく考えていたんです。更年期が怖いっていう気持ちも実際持っていましたし、すごくいろんな考えを持っていると感じました。そして他の女優さんとはまた違って、監督の意見をすごく尊重してくださる方なんです。そういうのがわかったので、一緒に仕事をしてみたいという気持ちになりました。実際に演じてもらったら本当に演技が素晴らしくて、周りの人に対する気遣いや面倒もよく見てくださる方。ハートもすごく強いんです。お酒を飲んで出てくるシーンも、実際にお酒を飲んで演じてもらったこともあります。

更年奇的な彼女

──お酒に酔ってるシーンはすごくリアルでしたね。男性の頭を瓶で思いっきり殴ったりとか。そのあとのシーンも思わず笑ってしまいました。

クァク監督:他にも千鳥足でふらふら家に帰るところも実際にお酒を飲んでるんだよ(笑)。

──そういうコメディタッチで笑えるところもありながら、キスシーンが特にロマンチックで印象的でした。監督が印象に残っているシーンやこだわったところはありますか。

クァク監督:キスシーンに関しては、この2人は同居しているので性的にも密接した距離にあったわけです。そういう風に意図的に魅せたこともあったんです。口が触れそうな距離で会話したり、腹筋をするシーンである意味ベッドシーンを連想させるような描写も仕掛けも入れている。そう見せることによって実はお互い惹かれあっているんだけど、抑えている感情を見せたかった。そんな風にずーっと撮っていて、実際にキスシーンを撮るときに、私としては本当に唇をちょっとくっつけるぐらいでよかったんですが、アクションをかけた途端にかなり濃いキスをしてしまったんです(笑)。「ちょっとそれはダメです」ってお願いしましたし、2人はまってましたと言わんばかりに、いきなり深いキスシーンをしてしまったんだ。男性の方は既に結婚していて、ジョウ・シュンさんも婚約者がいる状況なので「口をちょっとつけるくらいで」と改めてお願いしたよ。

更年奇的な彼女

──2人とも気持ちが高ぶっていたんですね(笑)。

クァク監督:男性の方は特に、少し距離を置いて遠くから見守っているスタンスだったんですが、実際にキスシーンになるとかなり激しかったですね。ジョウ・シュンさんも「待ってました」とオープンな感じでした(笑)。

──そんなジョウ・シュンさんですが、前髪がパッツンで可愛らしい髪型をしていましたね。

クァク監督:いろんな髪型を試してみた。最初の衣装テストの時に、以前私が撮った『ラブストーリー』のソン・イェジンさんみたいな風貌で出てきたので、「ちょっとこれじゃなくて、他のにしてみてください」ってお願いしました。いろいろやった中で、『僕は彼女のサイボーグ』の綾瀬はるかさんの写真を見て、彼女が「こっちの方向でやってみたい」とおっしゃっていたので、そのイメージで決めました。


更年奇的な彼女

──部屋の小道具とかもすごく可愛かったです。サボテンや亀がストーリに絡んできたり、どのようなイメージを持ってセットを考えたんですか。

クァク監督:2人は特に豊かな暮らしをしているわけではなかった。大学を卒業して、職場に通う。最近の中国の男女ではあるんですが、都市というよりも地方を舞台にしている。廈門(あもい)には都会的な姿もありつつ、古い村もあるんです。埠頭も出てくるんですが、都市の中にある埠頭という感じで、とても美しいんです。2人の暮らしを考えると、富裕層な感じではなく庶民的な暮らしの方がいいなと思いました。エキストラの皆さんも上海で撮るより結構協力的なんです。演技もお願いすると、下手だけどやってくれるんです。美術もすごくこだわって作ってくれる。さすが“バッタもの”をよく作る国だなと思いました(笑)。道や床の石とかを発泡スチロールで作ってくれるんですが、すごく上手く作ってくれましたね。(海に)投げる時の亀も本物そっくりに作ってくれたよ。

更年奇的な彼女

──ヒロインのチー・ジアさんの声を藤原紀香さんが吹き替えを担当されていますが、出来栄えはいかがですか。

クァク監督:実はジョウ・シュンさんの声がハスキーで、残念に思っていたんです。年齢も上の方に聞こえてしまう。藤原さんが声を担当してくださって、はるかに魅力が増したと感じましたし、感情も生かされている。藤原さんが声を入れてくださって、本当にこの映画が完成した気になりました。藤原さんにお願いできてでよかったと思います。日本の皆さんも藤原さんの声を気に入ってくれるんじゃないかと思っています。

──たしかに可愛らしい声と落ち込んでいる声を上手に表現していてステキでした。

クァク監督:ジョウ・シュンさんの声はハスキーだから男性っぽい感じも出てしまう。藤原さんにお願いしたことで、すごく女性らしい感じになりました。


更年奇的な彼女

──女性が主人公ではありますが、男性目線でも楽しめる作品だと感じました。ラブストーリーにおいて何かこだわっている点はありますか。

クァク監督:なによりも、恋愛をしている時の感情を見つけ出して、それを映画の中に入れようと思っている。もちろんそれは俳優さんを通してですが、恋愛をしている時の感情を、映画の中に入れようという思いで、努力をして撮っています。それに合わせて、音楽を使うときも誰かを好きになっている感情を上手く表現できるようなものを意識している。構図を描くときもそれに沿って作っています。

──破天荒で強い女性が登場する作品が多いですが、監督が惹かれる女性の理想像だったりするんでしょうか。

クァク監督:惹かれるというよりも、「強く見えるんだけど実は弱い面を持っている」という描写がすごく好きなんです。実際では私が作った女性って全然強くないと思います。中国の女性はものすごく強くて、想像を絶するくらい強い女性もいますよね(笑)。


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──韓国・日本・中国と違う国で映画を撮られていますが、人を演出する上で国の違いを感じたりしますか。

クァク監督:似ているところもあれば、すごく違うところもあります。中国の俳優さんたちは契約がすごく厳しい。1日に12時間以上演技をしてはいけないとか、待っている待機時間も2時間も待たせてはいけないと決まっているんです。全て撮り終える撮影の回数も決めておかなければいけなくて、今回は39日/39回の撮影で、1日も休まずにやりました。でも俳優さんたちが実際に動くのは30日と決まっていたんです。そうやって決めておくことによって、俳優さんたちも他のスケジュールを組むことができる。すごくタイトなスケジュールをこなしているんですよね。それに比べると、日本と韓国の俳優さんたちはそういう条件の面では接しやすいと思います。

──最後に公開を楽しみに待つ日本のファンへメッセージをお願いします。

クァク監督:久しぶりに日本にまた映画を持ってこれて嬉しいです。この映画を日本映画のように愛してくださると嬉しいですね。愛してくださったら、私もずっと日本で映画が撮れたらいいなと思っています。

──ありがとうございました。次回作の古川雄輝さん主演『風の色』も楽しみにしています!


映画 『更年奇的な彼女』 は4月8日(金)よりTOHOシネマズ日本橋・新宿ほか全国順次公開

【CREDIT】
監督:クァク・ジェヨン
出演:ジョウ・シュン/トン・ダーウェイ/ジャン・ズーリン/ウォレス・チョン
日本語吹替版キャスト:藤原紀香 他
配給:アジアピクチャーズエンタテインメント/エレファントハウス/カルチャヴィル
配給協力:DMZtokyo

公式サイト:http://kounenki-girl.jp

©New Classic Media Corporation

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