今から61年前、観客動員数961万人という驚愕の数字を叩きだした「ゴジラ」(1954年)。歴代観客動員数50位以内を見ても公開年が一番古い映画である。現在に至っても歴代観客動員数16位という当時のゴジラの爆発的人気を裏付ける記録を残す。「キングコング対ゴジラ」(1962年)にはアメリカ製を代表する怪獣キングコングが登場するなど、ゴジラシリーズ最高の観客動員数1,255万人、歴代観客動員数13位というゴジラシリーズでもトップの業績を誇っている。本年までで実に28作品も作られているゴジラは日本怪獣映画の金字塔と言えるだろう。
◆時代を共に歩み、変化を続けるゴジラ
その時の社会情勢や時代背景、映画界の客層、そして監督の色が反映されて多様なゴジラが製作されている。ある時は核の落とし子、ある時は愚かな人類のメタファー、ある時は正義のヒーロー。時代や作品によってゴジラの立ち位置に違いがあるのは、昭和・平成・ミレニアムそれぞれの「ゴジラ対メカゴジラ」シリーズを観ればよりわかる。
「ゴジラ対メカゴジラ」(1974年)ではメカゴジラは異星人による地球を征服するための兵器ロボットであった。このとき沖縄返還直後ということに配慮し、自衛隊や軍隊は一切登場しない。ゴジラは沖縄の守護神キングシーサーと共闘してメカゴジラに立ち向かう。1993年に公開された「ゴジラVSメカゴジラ」ではGフォースという対ゴジラ軍事組織がメカゴジラを造り、人類の脅威であるゴジラに対抗する。このときベビーゴジラ(ゴジラサウルス)が卵から孵り、ゴジラはたった一頭の同じ種族を守ろうと行動している。ゴジラがベビーゴジラと出会った時の安堵と切なさの感情を表現する繊細な表情は印象深い。
一方、「ゴジラ×メカゴジラ」(2002年)では第一作目を引き継ぎ当時のゴジラの骨格などを元にメカゴジラが造られ、人類がゴジラ打倒に奮闘する。隊員達の葛藤、メカゴジラの暴走、本作はこれまでの作品に直接は描かれなかった人間兵器による甚大な被害も映し出されている。そして容赦なく人間が踏み潰される描写など、ゴジラの圧倒的な恐怖が描かれている。
ゴジラと、そして我々がどのような変化を共に歩んできたのか。ゴジラシリーズから辿るのも面白いだろう。
◆魅力あふれる個性的な怪獣たち
「ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(2001年)は“平成ガメラ三部作”を手掛けた金子修介監督がメガホンを取り話題となった作品だ。戦争による怨念を纏わせたゴジラを倒すべく、お馴染み人類の味方のモスラや、地底怪獣バラゴン、三つ首のキングギドラが護国聖獣として立ち上がる。「三大怪獣 地球最大の決戦」(1964年)の際にはゴジラとモスラ、翼竜のラドンがキングギドラを倒すべく、いがみ合いながらも最終的には協力していく姿が微笑ましかったが、本作では立場が入れ替わり、ゴジラの宿敵であり敵役が多いキングギドラが日本の守り神として登場するのも大きな見所である。
ゴジラシリーズが長年人々を魅了してきた理由の一つが、このゲスト怪獣達の存在だろう。異星人により改造されたサイボーグ怪獣ガイガンは幾度もゴジラシリーズに登場し、子供たちに大人気だった。人間と植物とゴジラの細胞が合わさって造られたバイオ怪獣ビオランテはゴジラをも超える巨体に不気味な妖しさと、散り際の美しさが記憶に残る。平成シリーズの最後を飾る敵であり、ゴジラ第一作目の兵器オキシジェン・デストロイヤーの化身といえる怪獣デストロイアは、多様な形態に変化しゴジラを苦しめた。この他にも公害怪獣ヘドラや、登場するにつれゴジラの相棒のようになるアンギラス等、魅力的な怪獣は多い。
◆日本人の耳に響いたゴジラのテーマ曲
ゴジラのテーマ曲といえば、日本人で頭に浮かばない人はいないだろう。作曲者はゴジラシリーズの大半の作曲に携わった伊福部昭である。実は当初あの曲はゴジラではなく、自衛隊の進撃のマーチだったことはご存じだろうか?あまりに耳に残りやすく、世間の認識がゴジラのテーマとなってしまったため作曲した伊福部昭が根負けした形となったのだという。
◆原点、『ゴジラ』(1954年)
今でこそ子供向けと評されることも多いゴジラシリーズだが、初代ゴジラは強烈な風刺作品である。水爆実験により安寧の地から追い出されたゴジラが人間を襲い、ゴジラが通った跡はさながら東京大空襲後のような様相である。なかでもゴジラを倒す手段として、危険すぎる兵器を使用するよう主人公の尾形が開発者の芹沢に詰め寄るこのやり取りは、現代社会においてもメッセージ性の高いものになっている。
「ゴジラを倒すために使用しても、絶対に公表しないかぎり破壊兵器として使用されることはないじゃありませんか?」
「人間というものは弱いもので、一切の書類を焼いたとしても、俺の頭の中には残っている。俺が死なない限り、どんなことで再び使用する立場に追い込まれないと誰が断言できる?」
この言葉を残した芹沢博士がどんな決断をしたのか、観ていない人はぜひ観てほしい。
◆現代に蘇るゴジラの魂
そして今年、29作目にして満を持してゴジラの新作「シン・ゴジラ」が公開される。ゴジラ史上最大級118.5メートル、ハリウッドをも超えるオールスターキャスト328人と今までにない規模であることは間違いない。総監督・脚本・編集は「エヴァンゲリオン」シリーズで社会現象を巻き起こした庵野秀明。監督・特技監督は「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」シリーズや、“平成ガメラ三部作”でも特技監督を務めた樋口真嗣。準監督・特技総括は尾上克郎。3人は、「もし巨神兵が現代に現れたら――」という特撮短編映画「巨神兵東京に現わる」を共に作り上げている。
出演に「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」の長谷川博己と石原さとみ、他に竹野内豊、柄本明や前田敦子など若手から大御所まで日本を代表する多くの役者が名を連ねている。庵野監督はコメントでこう言っている。「シン・ゴジラもシン・エヴァも全力で作っていく」と。庵野監督の半身ともいえる作品エヴァンゲリオンの新作にも付く『シン』――「新」「真」「神」。そして今作のキャッチコピーは『現実(ニッポン)対虚構(ゴジラ)』――原点回帰とも期待されている今作、その全貌がとうとう明かされる。
映画『シン・ゴジラ』は7月29日より全国公開中