瀬戸内寂聴原作の同名小説を村川絵梨主演で映画化した『花芯』。瀬戸内寂聴がまだ瀬戸内晴美として「新潮同人雑誌賞」を受賞するも、1957年の発表当時批評家から「子宮作家」との批判を浴び、長く文壇的沈黙を余儀なくされた鮮烈な恋愛文学を原作に、主人公・園子をNHK連続テレビ小説「風のハルカ」の村川絵梨が体当たりで熱演し、夫・雨宮を林遣都が、不倫相手の越智を安藤政信が演じている。親が決めた許婚と結婚し、息子を儲けていた女性が、真実の愛を求めて彷徨うさまを描く本作。監督を務めたのは、『海を感じる時』で市川由衣の新境地を開拓した安藤尋。最新作に込めた思いのたけを語った。
──瀬戸内寂聴さんの伝説的文学を映像化されましたが、改めて出来上がった作品を観ていかがでしたか?
監督:やっぱり俳優陣の方々がよくやってくれたことが一番大きかったですね。それぞれの役を非常にエモーショナルにやってくれた。その中でも園子を演じてくれた村川さん。映画って時間軸通りに撮れないもので、スケジュールもタイトな中、園子がどういった立場でいて、どういう感情を持っているのか。それを的確に理解していて、そこに“あるべき顔”をしているのがすごくよかった。セリフを上手く出すのは当然であって、表情というか、顔そのものの変化を映像で見せることが出来るのは「大したもんだなぁ」と思いましたね。そういう彼女の表情や説得力が、この映画の力になっていると感じました。園子という女性の実在感、存在感というものが、村川さんがやってくれたことによって生まれたんだと思います。
──主演の村川さんと、「以前からご一緒したかった」と伺いましたが。
監督:以前、ある企画の準備をしていたんです。でもそれが流れてしまい、「このまま仕事しないのは寂しいなぁ」と思っていました。そういう中で『花芯』の企画が立ち上がってきて、女性としては大変な役だし、すぐにはお返事をいただけなかったのですが、実現しなかった企画の事もあり村川さんも「やりたい」と言ってくれました。やっと想い叶って嬉しかったですね。
──村川さん演じる園子の“恋心”を翻弄する役どころを演じている、林遣都さんと安藤政信さんのキャスティング理由は?
監督:プロデューサーとキャスティングディレクターの方から2人の名前が上がって、願ってもない嬉しい2人でした。実際に2人と個別に会って出演を了承していただいた感じです。
──林遣都さんと村川さんの掛け合いに関して、演出などでこだわった点はありますか?
監督:園子の感情に、彼は暴力的な行動をとったりしますが、ここまで林遣都を苦しめなくてもいいんじゃないかって思うくらいのシーンもありました。一人の女性にストレートな感情を見せる部分で、林遣都がいじめられればいじめられるほど、園子が立ってくる。園子は、自分の意思を嘘で包んだり誤魔化したり出来ない人間なので、自分が思うことを言ってしまう。でもそれが彼女の人生の覚悟であって、いたずらに林遣都をいじめたいわけではない。自分の意思を貫きたいがために、その結果彼を傷つけてしまうことになるんですよね。だからといって自分の意思を隠したり出来ない、正直すぎる彼女だからこそ、自分の人生を曲げずに背負っていくことができる。自分自身を誤魔化したり、社会通念に合わせていったりしないと、人間なかなか生きていけない。ある種社会に反旗を翻すような覚悟、それを耐えられる強さが園子にはある。「男がいるから女がいる」という男の反語としての女ではなく、「女は女なんだ」という世界、そういう部分を観せられればいいなと思いました。
──安藤さん演じる越智と園子が初めて交わるシーンで、本作のキーワードでもある「子宮が愛した」という言葉を強く感じました。これまで園子は雨宮との関係や嫉妬に苛まれて、ようやく初めて幸せを感じる場面だったと思うのですが、園子は何か悟ったかのような表情を浮かべますね。
監督:本当なら、様々な障害を乗り越えて、やっと結ばれて「幸せの絶頂」にいるはずなんです。そのまま浮かれてもいいのに、面倒くさい女というか(笑)。あそこで何を悟ったかは、僕自身作り手として限定したくはないのですが、やっぱり自分が“女”という子宮を持った生き物なんだと。それは女とか男とか関係のないカテゴリーにある存在で、子宮というものを最も意識した瞬間なのかもしれませんね。「愛」とか「恋」とかの先にあるもの、普通の人が悟る必要のないものを、彼女は超越して知ってしまう。ある意味、不幸せかもしれないですね。その結果、彼女はいろんなことを引き受けて生きていかなくてはいけないし、一番孤独な事ですよね。
──最後に公開を待つファンへメッセージをお願いします。
監督:園子の生き様から何かを見つけて欲しいです。もちろんいろんな意見があると思いますが、好き嫌いで判断するのではなく、彼女の生き様とは何なんだろうと考えて欲しいですね。「何で好きなんだろう」「何で嫌いなんだろう」という中から、もう一つ発展して何かを見つけられる映画だと思います。
映画『花芯』は8月6日(土)よりテアトル新宿ほか全国公開
【CREDIT】
原作:『花芯』瀬戸内寂聴著(講談社文庫刊)
監督:安藤尋 脚本:黒沢久子
出演:村川絵梨、林遣都、安藤政信/毬谷友子
配給:クロックワークス
R15+
(C)2016「花芯」製作委員会