第89回アカデミー賞にて『タイタニック』(97)と並ぶ史上最多タイ14ノミネート、本年度最多6部門受賞(監督賞:デイミアン・チャゼル、主演女優賞:エマ・ストーン、撮影賞、美術賞、作曲賞、主題歌賞:City of Stars)を記録した話題作『ラ・ラ・ランド』が2月24日より公開中だ。今回特集するのは、主演を務めたライアン・ゴズリング。彼の出演したラブストーリーの中から、従来とは一味違ったラブストーリー4作をネタバレなしで取り上げる。1作でも観ておくことで、より『ラ・ラ・ランド』を楽しめることだろう。
◆甘いマスク・演技力・音楽センスを兼ね備えた男、ライアン・ゴズリング
ライアン・ゴズリングは、カナダのオンタリオ州ロンドン出身。同郷のレイチェル・マクアダムズと共演した『きみに読む物語』(04)でブレイクした。その甘いマスクだけでなく確かな演技力から、ハリウッドで第一線を走り続けている俳優の一人だ。出演作の中でもしばしばその歌声や楽器の腕前を披露し、本作ではピアニストを演じるライアンだが、自身のバンドで曲も出すミュージシャンや作曲家としての顔もある。そんな多才な彼の魅力に迫る。
1.アクセル全開!ブレーキなしで暴走する愛の物語『ドライヴ』(11)
ライアン・ゴズリングの代表作と言えば、この作品がまず挙がるだろう。本作では、類い稀な運転技術を活かし、昼は自動車整備工兼カースタントマン、夜は犯罪者を逃がすドライバーを演じた。そして、本作で2011年カンヌ国際映画祭監督賞の栄誉にも輝いたニコラス・ウィンディング・レフンの名を世に知らしめた作品でもある。
・男心をくすぐるキャラクター
ライアンと言えば、作中で得意の美声を披露したり、女性にモテまくる口の上手い男を演じることもしばしば。しかし今作では、裏稼業では「銃は持たず、運転だけ」「5分以上は待たない」といった自分なりの仕事のルールを持ち、必要なことしか話さない、寡黙で職人気質な男を演じた。彼はいつも咥えている楊枝と、サソリの刺繍のジャケットがトレードマーク。運転の際は革の手袋にシンプルな革ベルトの腕時計を着け、お気に入りのスポーツカーに乗る。そして仕事は淡々とこなすという、思わず真似したくなるような男心をくすぐるキャラクターだ。
・寡黙さで際立つ演技力
そうしたライアンの本作での演技は、言葉が少ないからこそ目や仕草で語る演技が光り、代表作でありながら、他の作品とは違った顔を見ることができる。特に、キャリー・マリガン扮するヒロインと過ごす時間は、暖かさが伝わってくるようだ。その純粋すぎる愛情は次第に暴走していき引き返せない道へと進んでいくが、”愛情とは何なのか”、余韻が残るようなラブストーリーとなっている。
2.エマ・ストーンと初共演!それぞれの恋模様が交錯する『ラブ・アゲイン』(11)
本作は、『ラ・ラ・ランド』でもヒロインを務めるエマ・ストーンとライアンの初共演作で、原題は”Crazy, Stupid, Love.”。原題から連想できるように、恋愛のせいで端から見れば変になったり、おバカな行動をとってしまう人々を描いたハートウォーミングなラブコメディだ。
・豪華キャストの恋愛模様が交錯
本作の主演はスティーブ・カレル。長年連れ添った妻の一晩の過ちが原因で離婚してしまうサラリーマン、キャルを演じた。そして、その妻役としてジュリアン・ムーアが出演するほか、ケヴィン・ベーコン、マリサ・トメイなど豪華な布陣となっている。ライアンはキャルに「男らしさを取り戻して、奥さんを見返してやろう」とナンパ指南をするプレイボーイ、ジェイコブを演じている。本作ではキャルはもちろん、ジェイコブなど複数の人々の恋愛が描かれる。そして、繋がりがないかに思えるそれぞれの恋愛模様が、次第に交錯していく展開も見どころの一つだ。
・魂の伴侶
作中の台詞では、しばしば「魂の伴侶」という言葉が出てくる。いわば運命の相手のことだ。例えばジェイコブはどんなにナンパが上手くいっても、その相手の中に一晩以上の関係を築きたいと思える女性はおらず、孤独を抱えた一面もある。そんな彼が巡り会う「魂の伴侶」が、エマ・ストーン扮するハンナだ。「この人でなければダメなんだ」と思える人を信じ、それぞれの登場人物たちが恋に盲目に突っ走っていく、ひたむきでもちょっとおかしな姿に心温まる作品となっている。
3.カップルで観るのは本当にNGなのか。『ブルーバレンタイン』(11)
一見幸せそうに見えるが、すれ違い続けて冷めてしまった夫婦を現在・出会った当時の両方の時間軸から描く、ライアン・ゴズリング主演のラブストーリー。ヒロインを務めるのは『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(5月公開予定)で、アカデミー賞4度目のノミネートとなるミシェル・ウィリアムズ。
・タイトルにご注意あれ
「バレンタイン」と聞くと甘いラブストーリーかと思ってしまうが、実際の内容はかなりビターなテイスト。タイトルの由来はトム・ウェイツの同名楽曲とも言われているが、もう一つの説もある。”Blue”は「憂鬱な」、”Valentine”は「恋人」や「(バレンタインにチョコを渡すような関係の)相手」を指すという説。つまり「憂鬱な恋人」だ。
「カップルで観ない方が良いラブストーリー」として挙げられることもしばしばな本作。しかし、必ずしもそうとは限らない。確かに、食い違う夫婦の現在は、出会った頃との対比で更に「どうしてこうなってしまったんだ」と思わずにはいられなくなる。だが、自分の性別側の視点だけではなく異性側の視点も踏まえ、男性はミシェル、女性はライアン側からもストーリーを追ってみよう。そうすることで、「どちらが悪い」といった不毛な口論をするのではなく、異性の知らなかった、見てこようとしなかった一面に気付ける作品だ。
・劇中に散りばめられた「ブルー」の美しさ
劇中では至るところにブルーの色調のものが登場する。例えば、ディーンの手についたペンキ、2人で行くラブホテルのライトなどだ。これら様々なトーンのブルーが作中に散りばめられることで作品に統一感が生まれ、また映像作品としても美しいものとなっている。映像を楽しみつつブルーの色調の物を探してみると、いつもとは少し違った映画の楽しみ方が出来るのではないだろうか。
4.心優しい内気な青年が愛したのはダッチ・ワイフ!?『ラースと、その彼女』(07)
ライアンがラブ・ドールに恋する青年ラースを演じ、第80回アカデミー賞脚本賞にもノミネートされた本作。
・純愛を描いたラブストーリー
ラブ・ドールとは、言わば高級ダッチワイフのことだ。これを聞いただけで、下品なコメディではないかと予想し、レンタルビデオ店で前を素通りしてきた方は、その先入観を今すぐ捨てて欲しい。この作品では、紛れもなく愛情が描かれている。それも純愛が。というのも、本作でラブ・ドールに恋をするラースは、内気だが心優しい青年で、町中の人々から愛されている人物だ。そうした彼が対人関係の問題を抱えてしまった結果、妄想でラブ・ドールを実在する女性”ビアンカ”と思ってしまうようになる。つまり、ラースにとってビアンカへの愛は紛れもなく本物なのだ。そのため、ビアンカにも本物の女性へ接するのと同じように話しかけ、抱きしめもする。最初は白い目で見ていた周囲の人々も、その様子を見て次第にラースとビアンカに寄り添っていく。
・静かで感動的な脚本
こうした人間ドラマやラブストーリーでは、日常の出来事を必要以上にドタバタ劇のように描き、物語に起伏をつけているものも多い。だが、この作品ではそう言った様子が一切なく、ラースが妄想を抱くようになったきっかけもはっきりとは明言されない。主人公が普段から多弁なキャラクターではないこともあり、余計な説明もない。ラースとビアンカ、そして周囲の人々の人間模様を静かに、かつ感動的に描き出しているのだ。まだ寒い時期が続く今の季節にぴったりの、胸がじんわり暖かくなるような作品だ。
◆『ラ・ラ・ランド』とは
そして、ライアン・ゴズリングの最新作が『ラ・ラ・ランド』。ミュージカル映画の本作も、これまでのラブストーリーとは一味違った作品と言える。
・オリジナルのミュージカル
著名なミュージカル映画といえば、『ウェスト・サイド物語』(61)や『サウンド・オブ・ミュージック』(65)、近年で言えば『オペラ座の怪人』(04)、『レ・ミゼラブル』(12)などが挙げられる。しかし、こうした世界中に名の知れたハリウッドのミュージカル映画は、その多くがブロードウェイなどのミュージカルで上演されたものの映画化だ。しかし、本作は最初から映画作品として作られたもので、楽曲もオリジナルのものを使用している。チャゼル監督がミュージカル映画を作れる喜びと、その始まりを高らかに宣言しているかのような冒頭のシーンで、観客はいきなり心を掴まれてしまうだろう。
・共演3度目のライアン&エマによる息の合ったパフォーマンス
ライアンとエマ・ストーンは、先ほど取り上げた『ラブ・アゲイン』の後、『L.A.ギャングストーリー』(13)でもカップルとして共演。本作が3度目の共演にして、初のメインカップルとなる。
そして、ミュージカル映画といえば『レ・ミゼラブル』の公開当時、出演者たちがアフレコではなく実際に歌っていたことも話題となった。しかし、今作は更に一味違う。ライアン、エマ共に実際に歌っていることはもちろん、ダンスに代役を使うこともなく、ライアンはピアノの演奏まで全て自分たちで演じている。予告編を観ることで、思わず体が動くメロディ、恋をしたくなるような2人の世界を垣間見ることが出来る。
261館308スクリーンで公開された本作は、土日を含む公開3日間で観客動員数40万人、興行収入約5億7,000万円を記録。本日発表された第89回アカデミー賞では、作品賞&主演男優賞ほか14ノミネートのうち8つを落とす結果になったものの、32歳デイミアン・チャゼルの監督賞受賞は、1931年『スキピイ』でノーマン・タウログ監督が受賞してから85年間破られていなかった記録を破る史上最年少受賞となった。
「映画は好きでもミュージカル映画はちょっと…」と敬遠してきた方こそ、『ラ・ラ・ランド』からミュージカル映画デビューをしてみてはいかがだろうか。きっと、胸の高鳴るような、新たな映画体験が待っているだろう。
映画『ラ・ラ・ランド』はTOHOシネマズみゆき座ほか大ヒット公開中
【CREDIT】
監督・脚本:デイミアン・チャゼル
出演:ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン、J.K.シモンズ
配給:ギャガ/ポニーキャニオン
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