『雪女』杉野希妃×山口まゆ 対談インタビュー、初タッグで固い信頼関係築く「ずっと関わっていきたい」

マンガ肉と僕』『欲動』などで知られる映画プロデューサー/女優の杉野希妃が、小泉八雲原作の「怪談」の一編である同名古典怪談を新たな解釈で映画化した『雪女』が3月4日に公開を迎える。今回、監督と主演を務めた杉野と、雪女/ユキの娘・ウメを演じた山口まゆに作品の魅力や撮影時のエピソードを伺った。

雪女
(C)Snow Woman Film Partners

──はじめに、小泉八雲の原作「雪女」を映画化した経緯をお伺いできますか。

杉野監督:小泉八雲は知っていたんですが、4年前まであんまりちゃんと読んだことがなかったんです。怪談の中でも「雪女」「耳なし芳一」とかは昔読んだことがあるんですけど、改めて読み直そうかなと思いまして...。読み直してみたところ、凄く、現代人が忘れている大切なものが凄く詰まっていて。

──以前に「“雪女”という謎めいた存在が、今の現代社会にどう伝わっていくのか」問いかけてみたいとおっしゃっていましたね。

雪女
(C)Snow Woman Film Partners

杉野監督:そうです。小泉八雲ってギリシャ出身で、アイルランド生まれ育ち、アメリカに渡って仕事をして、最終的に日本にたどり着いてラフカリオ・ハーンから小泉八雲に名前を変えてまで日本人になって。外国人の視点から見た日本の心を日本だけではなく海外にも伝えた方なので、彼が思いを馳せた日本というものが今の日本ではちょっと失われつつあるかなと思うんですよ。

そこはやっぱり大事だなと、いま描くべきなんじゃないかなと思いました。映画化する上で雪女と巳之吉の間に生まれた子供の描写がほとんどないんですよ。10人生まれたということしか描かれてなくてその子供たちがどうなったのかとか、どういう思いを抱いているのかということが全然描かれてないんです。(原作では)省略されているんですけど、その存在こそがいま大切で、交わった愛の子、混血の子がむしろ今の世の中を担っていくんじゃないかと私自身は思いまして。それで、山口まゆちゃんに大事な役どころを演じていただきました。

──山口さんは今作で『くちびるに歌を』に続き2本目の映画出演ですが、オファーを受けた時の心境は?

山口:まずはじめに一番最初に疑問に思ったことは、監督と主演の方の名前が一緒だったので「これはどう撮影するんだろう?」っていう疑問から入ったんですけど(笑)。でも台本を読んだ時に、文だけではわからないものっていうのがたくさんあって、でも映像にしたらすごいことになっていたのでびっくりしたんですけれども。凄く映像にした時の印象が強くて、本で読んだ時はウメという役を作らなきゃと思っていたので、やっぱり客観視した時が一番良さがたくさんわかったんですけれども。オファー頂いた時は単純に嬉しかったです!

杉野監督:よかったです(笑)。

──昨年の東京国際映画祭(TIFF)でコンペティション部門日本代表として選ばれましたね。

杉野監督:はい!TIFFはもう育ての親と言っても過言ではないくらい、いろんな映画で参加させていただいていて、でも監督としてのコンペティション部門は初めてだったんです。やっぱり(今回の)コンペティション部門は特別な作品しか行けないという印象があったので、選ばれたと聞いた時は本当に嬉しくて。

──監督としては今作が三作目、監督作で主演を務めたのは今回が初めてなんですよね。

雪女
(C)Snow Woman Film Partners

杉野監督:そうですね。一作目もヒロインの1人はやったんですけど、がっつりメインの主演は今回が初めてですね。でも、映画は青木さんの視点で描かれているし、まゆちゃんの存在も特別だし、私だけが主演というわけではないです。3人が主演です(笑)。

──雪女とユキ、一人二役演じてみてかなり大変だったのでは?

杉野監督:二役というのはそんなに大変じゃなかったです。雪女は雪女でまた別のキャラクターというか。白黒のシーンはちょっと伝説的な感じで、どこの時代のどこなのかというのがわからない雰囲気で描きたかったんです。その雰囲気を出すのが大変でした。雪女のシーンは雪女として演じて、それとは全く別に、ユキとして変化していく過程を演じなければならなかったので、面白い挑戦だったなぁと思います。

──山口さんは今後一人二役のキャラクターを演じてみたいとか思いますか?

山口:二役ですか?うーん、二面性のある、裏表のあったりする役とか挑戦はしてみたいなとは思いますね。なんか、役にのめりこめるようになりたいです。日常からもその役についてしか考えないっていうのを1回でいいからやってみたいです。1回やったら多分もう疲れちゃうかもしれないけど(笑)。挑戦はしてみたいですね!

杉野監督:どんな役がやってみたい?

山口:今、結構最近すごく考えるようになっちゃって...。

杉野監督:何に対して?

山口:芝居に対して、深いところまで行き過ぎというか、その手前くらいまで行っちゃって、行き過ぎてわからないみたいになってしまって。なんか今、自分の変化になるものが凄く欲しくって、きっかけになるものが一つでいいからそういう作品に巡り会いたいなとは今思っていて。ちょっと変化のある役に挑戦したいなと最近思っています。

──悪女と天使みたいなキャラクターを演じたら面白そうですね!

雪女
(C)Snow Woman Film Partners

杉野監督:一人の人間自体に多面性があるなって私は思っていて。私自身の中にも、悪女的な部分と聖女的な部分を持っているなって自分でも思うし、多分まゆちゃんの中にもそういうものはきっとあると思うから、ドス黒さや清らかさを同時に出せるキャラクターと凄く合いそう!

山口:いま自分のことが凄く嫌いで(笑)。

杉野監督:なんで!?

山口:わかんないんですけど、でも凄く嫌いで!

杉野監督:なんでよ〜!私は大好き!

山口:えへへ(笑)。なんか嫌いすぎて、自分がどんなことを考えているのかとか、もう考えたくなくて(笑)。

杉野監督:それは思春期だからなのかな、なんなんだろう。

山口:なんなんですかね。

杉野監督:それは仕事の上で?それとも普段から?

山口:仕事の上でもそうですし、普段からもそうです。なんか、合う人っていうのが高校に入ってからあんまりいなくて、だから自分ってなんなんだろうっていうのもありますし、人からの意見を聞きすぎちゃって。いま『相棒』の映画が公開してて、それに対する意見とか。結構疲れたというか大変な役で、不安がとっても多くて(笑)。それが今不安だらけで、そういうのもあるのかなって思うんですけどとにかく自分が嫌いで、なんか変化が欲しいですね(笑)。

杉野監督:なるほど。でもそういうのが羨ましいというか、多分いま何をやっても吸収できる状態じゃないですか。私がまゆちゃんと一緒にお仕事したかったのには理由があって、凄くあどけなさもあるんだけれども、一方ではものすごく達観してるような部分であったりとか、ふとした瞬間に大人っぽい表情を見せるんですよね。でも話していることは子供らしかったり(笑)。「こんな子供が欲しいな」って思ったり(笑)。そんなアンバランスな感じって、今しかないし凄く魅力的で。そこが輝いているんですよね。まゆちゃんの今の輝きを映画の中に刻めたことがとても嬉しいです。

──そう考えると、今すごく良い環境にいますよね。『相棒』でもシリーズ最年少ヒロインを演じて、かなりプレッシャーがあったんじゃないでしょうか。

山口:とんでもないプレッシャーがありました(笑)。考えられないようなプレッシャーで。現場で泣いちゃったり、考えすぎちゃってパニックでしたね。今までになかったです。セリフすっ飛んじゃったりとか...。怖かったです。

杉野監督:でも本人はそう言ってるかもしれないけど、それを乗り越える強さがある人だなと思います。すごく軸があるって私は思ってますけど(笑)。

山口:極限まで来て「やるしかない!」って思っちゃいますいつも(笑)。

──巳之吉役の青木崇高さんから何か吸収できたものはありましたか?

雪女
(C)Snow Woman Film Partners

山口:本読みの時に、青木さんの準備稿見たらもう全部バーって真っ黒で!いろんなこと書いてあってびっくりしました。こんな俳優さんいるんだなって。

杉野監督:ストイックすぎるよね。

山口:本当に(笑)。決定稿もまだもらってないのに、準備稿に全部書いて、決定稿もらったらそれを準備稿に書いて(笑)。

杉野監督:ずっと使ってるものの方が自分の想いが詰まってるんでしょうね。現場でも台本あるのにを使われてたと思います(笑)。

山口:すごいですよね。あんな人になりたいと思いました。すごく刺激を受けました。

──裏ではかなり努力されてるんですね。

雪女
(C)Snow Woman Film Partners

杉野監督:意見もすごく言ってくださる方ですね。私も監督として自分のイメージを押し付けるタイプではなくて、人と交わることで刺激を受けて形を変化させていくことの方が興味があるので、そういう意味では青木さんとコラボレーションして、いろいろアイデアをいただけたのは作品にとってもよかったですし、私自身も刺激を受けましたね。キャラクターを吸収するというか取り込む意気込みは凄まじいものがありました。

もともと青木さんとは何度かお話ししたことはあったんですけど、一緒にお仕事したことはなくて。役者さんとしても尊敬しているので、「いつかご一緒にお仕事したいな」と思っていました。巳之吉というキャラクターは原作を読むと朴訥(ぼくとつ)としているイメージが強かったんですけど、雪女が人間化していく過程を描くのであれば、その相手となる人間は“動の中に静を秘めている”というか。そういう方に演じてもらった方が、異種と交わった時の化学反応がどうなるんだろうという面白さがありまして。それで青木さんに、イメージ的にもご本人のキャラクター的にも役者さんとしても、ご一緒にこの作品にコミットしていただきたかったんです。

──野生に生きる男っていう雰囲気もあって、ギャップというか柔らかさもあって役にぴったりでした。山口さんは先ほど「こういう人になりたい」と青木さんとの共演エピソードを話していただきましたが、今後どんな女優になりたいですか?

山口:一回、妊娠した中学生役をやったんですけど、オンエアを見た時にいろんな人からいろんなことを言ってもらって...改めて自分のことを客観視できたというか。今までは役をやることに精一杯だったんですけど、印象に残るような芝居ができたのかなって思えて、それでちょっと自信がもらえて。これからも何か人の心に残るような芝居をしていきたいなと思っています。「海外に行きたい!」とかそういう目標より、いま目の前にあることをどれだけ自分が精一杯出来るか、というのを突き詰めていきたいなって思ってます。

──今後やってみたい役とか、監督として作ってみたいテーマはありますか?

雪女
(C)Snow Woman Film Partners

杉野監督:キャラクターはなんでもやってみたいなという思いはあって。常に思っているのは新しい世界を見せてくれる、新しい感覚を得られるようなキャラクターを常に欲しているかなと思います。気が狂う役も面白そうだなと思いますし。例えば殺人鬼の役であったとしても多分そのキャラクターの中に私とリンクする部分があると思うんですよね。内面的な部分であったりとか。それはどういうキャラクターであってもあると思うので。なんですかね、難しいですね(笑)。いろんなものをやっていきたいなと思ってます。

海外の監督さんや役者さんとご一緒にお仕事したり、違う言語を話すことで、どういう化学反応が起きるのかにも興味があります。作り手としては、広島で生まれ育ったっていうのがあるので、平和がテーマの作品ですとか、何か枠を超えていく、国境だったり宗教だったり、いろんな人種だったりを超えていけるような作品を作っていきたいなと思ってます。多分どういうテーマを扱ったとしても、私の作品の中にはそういうものが入ってしまうのではないかなと思いますね。

──山口さんはどうですか?今回は幻想的な役、怪談モノに初めて挑戦された思うんですが、次に新しくやってみたいことは?

雪女

山口:なんだろうな、杉野さんの作品に関わらせてください(笑)。

杉野監督:そう言っていただけて嬉しいです(笑)。ありがとうございます!

山口:まだ経験が豊富じゃないので、監督と役についていろいろ話すということがまだ全然できなくて。

杉野監督:えー、私はすごい話したと思ってるけど(笑)。

山口:杉野さんが一番話したんです!

杉野監督:本当に!?

山口:今まで男性だったり、すごいベテランの方だったり。(話に)入った方がいいんですけど上手く入れなくて、何か遠慮しちゃって。いかにこう、いろいろ話して役を作っていくかっていうのを『雪女』では出来たと思ってるので。

杉野監督:それはよかった!

山口:だから、またやりたいです(笑)。

杉野監督:是非宜しくお願いします。

山口:宜しくお願いします!

杉野監督:まゆちゃんは「次こういう役やってみたらどうなんだろう」とか「こういう役やってもらいたいな」とか、思わされるんですよ!本当に。だから、自分の今後の作品でもずっとずっと関わっていきたいなって。ごめんね、勝手ながら思っちゃってます(笑)。

山口:すごい嬉しいです!

杉野監督:その時その時の違った色気がどんどん出てくるんだろうなと思います。宜しくお願いします!

衣装提供(杉野希妃):アニエスベー
衣装提供(山口まゆ):トゥービー バイ アニエスベー


映画『雪女』は3月4日(土)公開

【STORY】
—恐怖と神秘と、そして雪の結晶のように繊細ではかなく美しい愛の物語—

ある時代、ある山の奥深く、吹雪の夜。猟師の巳之吉は、山小屋で、雪女が仲間の茂作の命を奪う姿を目撃してしまう。雪女は「この事を口外したら、お前の命を奪う」と言い残して消え去る。翌年、茂作の一周忌法要の帰り道に、巳之吉は美しい女ユキと出会う。やがて二人は結婚し、娘ウメが生まれる。14年後。美しく聡明な少女に成長したウメは、茂作の遠戚にあたる病弱な幹生の良き話し相手だった。しかしある日、茂作の死んだ山小屋で幹生が亡くなってしまう。幹生の遺体には、茂作と同じような凍傷の跡があった。ユキの血を引く娘のせいだと、巳之吉を激しく問いつめる幹生の祖父。巳之吉の脳裏に14年前の出来事が蘇り、以前から自分の中にあったユキに対する疑心と葛藤する。自分があの夜の山小屋で見たものは何だったのか、そしてユキは誰なのか…。

【CREDIT】
出演:杉野希妃、青木崇高、山口まゆ、佐野史郎、水野久美、宮崎美子、山本剛史、松岡広大、梅野渚ほか
監督:杉野希妃
配給:和エンタテインメント
公式HP:http://snowwomanfilm.com/

(C)Snow Woman Film Partners

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で