ソリッド・シチュエーション・スリラー『ソウ』シリーズ待望の新章、『ジグソウ:ソウ・レガシー』が11月10日(金)より日本公開される。今回、『ソウ』~『ソウ ザ・ファイナル3D』までの宣伝監修を務め、最新作の宣伝にも携わっている竹内伸治氏と、シリーズ全作の日本版ビジュアルデザインを手がけた吉川俊彰氏の2名に、『ソウ』シリーズのヒットの裏側や宣伝の苦労、デザインの裏話などを伺った。
究極の状況設定=ソリッド・シチュエーション、被害者に仕掛けられる戦慄のゲーム、それらすべてを飲み込む驚愕のクライマックスで常に観客を恐怖と興奮の境地へと陥れていく『ソウ』シリーズ。
ストーリーは公開まで<超極秘>とされているのが通例の中、第1作目の『ソウ』(04)から『ソウ ザ・ファイナル3D』(10)、新章『ジグソウ:ソウ・レガシー』(17)の宣伝・デザインを手がけてきた両者。シリーズ7作品を通して登場し続けてきた連続殺人犯“ジグソウ”ことジョン・クレイマー(トビン・ベル)が今作で再登場することもあり、ファンの間で様々な話題を集めている。
※シリーズ過去作のネタバレ、新作の内容に触れる部分があります。お読みの際はご注意ください。
究極の状況設定“ソリッド・シチュエーション”というワードは日本が発端!
──日本で『ソウ』のような過激描写を含むスリラー映画を世に出すのは挑戦的だったのでは?
竹内:1997年に『スクリーム』という映画をやった時に、まず“ホラー”っていう言葉を使わずにどういう風に言うかっていうのをやったんですね。当時『ソウ』1作目の宣伝プロデューサーたちと「“ホラー”はやっぱり使いたくないね」って話を最初からしていて、一生懸命いろんな人と話をしていく中で“ソリッド・シチュエーション・スリラー”っていうネーミングを考えました。ソリッドなシチュエーションのスリラー映画っていうジャンルを、ホラーという言葉を使わずに表したいということで、こういう名前を発明したんだよね。ちなみに『スクリーム』の時に作ったのは“ジェットコースター・ショッカー・ミステリー”だったね。
スリラー映画にしては珍しい“白いパッケージ”が秀逸で衝撃的!
竹内:『ソウ』1作目はとにかくビデオ業界にものすごく衝撃を与えた。それ以降は、彼が(吉川)が作ったこの白パケ(白いパッケージ)が、もう一躍ビデオ店の棚を埋めるようになっちゃったんだよね。
吉川:バスルームの嫌な感じの錆びたような白いタイル、朽ち果てたバスルームの雰囲気が怖かった。もう誰も使ってない使い古したイメージがすごく印象的で、ピカピカだったら衛生的な場所のはずなのに...。血の塊すら同化してしまうくらいおぞましい様子を、絵にしようと思ったら白いタイルだった。
竹内:まぁ本能だよね。もっと本当は血がダダダッとあったんだけど、刺激的すぎるビジュアルにすると映倫に引っかかるかもしれないと。結局は(背景が)黒だと血が目立たないから、やっぱり白で正解だったね。
吉川:タイルの目地に入り込んだ血っていうのも不気味ですよね。
竹内:ティザービジュアルの時点では、赤い切り口の足がゴロンと置いてあって、嫌な青みがかかった色だった。僕は足の(切り口の)先がどうなっているのかを予想させたいと思って。つまり、切れているのを見せちゃうとつまらないんですよ。なんとなく生きてなさそうな足の先がどうなってるのかを想像させるように、足の切り口を見せないビジュアルにするべきだと話をしたんです。
吉川:それを聞いて、この切り口をモザイクをかけたり加工したり、色々やったんだけど、結果としてはトリミングしてしまって切り口の先を想像させるっていうティザーポスターのデザインが割と僕らの中ではハマって。結構海外はグロいところまで見せちゃうんですけど、そうじゃない怖さの表現を考えました。これはシリーズを通した※トンマナですね。(※「トーン&マナー」の略で、 広告におけるデザインの一貫性を持たせることを指す)
ハロウィンに合わせ、本国と同時期に日本公開する宣伝スタイルに苦戦
竹内:『ソウ』1作目の時だけは、サンダンス映画祭に出た映画をアスミック・エースが気に入って買ってきて、秋の公開まで結構長い期間宣伝できた。でも、予告編は本国と同時公開っていう無謀なことをしたよね(笑)。『ソウ2』は公開時期も本国と同時だったのでビジュアルが全く(本国から)来ない中で、宣材作りとかを始めたんですよ。
吉川:1作目の時は結構素材もあったり、映画も割と早い段階で観られたりしたので色々できましたね。でも、『2』以降は本当にハラハラしながら「いつになったら素材届くの?」って。それは新シリーズでも引き続きで、伝統は続いてます(笑)。
竹内:とにかく『ソウ2』がね。(本国と)全く同じ日の公開だったと思うんですけど、本当に何も来なくて。2人で色々相談して作ったポスターがこれ。この指は吉川さんのアシスタントの指なんですよね(笑)。
吉川:なんか海外のビジュアルは「どうやら今度は切れた指二本が転がってるらしい」と。僕は当時、アブソリュートグラマーっていう会社に居たんですけど、そのチームで一緒にやってたスタッフの指を急遽、ちょっと汚して撮影して、血の跡も炭かなんかで描いて、タイル素材も別のところから持って来て...。
竹内:『5』の時はすごいんだよ。
吉川:もう自分で撮ろうと思って(笑)。自分の顔を下から撮ってもらって作りました。「日本人の顔出ちゃったよ(笑)」って笑ってましたね。(ティザービジュアルのみ)
竹内:もう本当に『2』の時が1番苦しくて、それ以降は同時公開をやめたんです。以降は1週間か2週間くらい、長くて4週間はあけて公開しました。同時公開はかなり苦しかったです。ネタバレが絶対にNGなので本編が公開直前まで来なくていつも本編を観れないんですよ。シチュエーションコピーも書かなくちゃいけないのに...。
吉川:あと物語の仕掛けが複雑だから、言葉で説明するのも難しいですよね。もう毎年、ハロウィン恒例の「今年もこの季節がやってきました!」みたいな感じで(笑)。
竹内:ただ、楽しい仕事でしたよ!デザイナーも予告編ディレクターも非常に優秀ですし。
吉川:『ソウ』1の時の衝撃を、ずっと『ザ・ファイナル』まで勢いで引っ張れたというか。単純に、観たときの面白さをそのまま表現したまでです。
『ソウ』シリーズきっての“鳥肌”クライマックスに絶賛の声!「シリーズの中で一番好きなシーンは?」
吉川:やっぱり1番最初のアマンダのヘッドギアの造形が。顔面逆トラバサミですね。ネーミングでいうとイマイチですけど(笑)。あのギアは最新作でも出てくるじゃないですか。(『ソウ』1作目の)アマンダのあのシーンが僕大好きで(笑)。映像のカット割りもすごかったじゃないですか。あの辺のスピード感、警察が追いかけてくる時のスピード感、本当に「センスいいな」と思います。
竹内:やっぱり『ソウ』のトビン・ベルが立ち上がるところかな(笑)。
吉川:あれはもう(笑)。クールでしたよね。それで“ゲームオーバー”がっしゃん(扉を閉める)!で終わりですからね。あのテンポは本当に凄かった。
竹内:最初に観た時はさすがに驚くよね。前半のゲームはユーモアがあって、有刺鉄線が張り巡らされた檻の中で叫ぶ男性とか、観ていてすごく面白かった。何といってもトビン・ベルが最後に立ち上がるのは「生きてたのか!」ってなりますよね。後の作品で(自分を眠らせるために)弛緩剤打ってるところが出てきますけど...あれは驚くでしょう。
吉川:本当ですよね。あれは全然気がつかなかったもんな。
竹内:あれは凄いよね。ホラーとかスリラーって、割とパターン踏んできて「もう新作出ないんじゃないかな?」と思うと、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』とか『パラノーマル・アクティビティ』、『ソウ』にしても『スクリーム』にしても、昔のものを使いながらも新しいものが出てくるのがすごいなと思うんですよね。しかも、新しい才能とともに生まれるケースが結構多いし。
竹内:『ソウ』1なんてまさにそうですよね。ジェームズ・ワンとリー・ワネルが約18分の顔面逆トラバサミのシーンだけ最初に作って、それでアメリカの会社とかカナダの会社に売り歩いて...そして『ソウ』1が出来上がってサンダンス映画祭で上映されたらすごく話題になって。
吉川:あのシーンを最初に作ったんですね!
竹内:リー・ワネルが演じたんじゃなかったかな?アマンダの役を。
新作の舞台は“ジグソウ”の死後10年── 7年ぶり新章の魅力とは?
竹内:今回の『ジグソウ』は、また新しいニュースタートな感じはしましたね。さすがに7年温めてるだけあって、脚本がすごく見事でしたね。非常に良く出来ている脚本で。割と本格的なミステリーなんです。見事でしたね。
吉川:随所に『1』から『3』までのオマージュを結構取り入れていましたよね。
竹内:だいたい最初の三部作に対するリスペクトで『ジグソウ』は出来ているような気はしました。ゲームや仕掛け、大義名分みたいなものは『3』に近いですね。ゲーム的にも『3』のゲームが近いように思えた。
吉川:また続くんですかね?
竹内:興行収入次第でしょうね、アメリカの。ただこれ続けるのちょっと大変だよね。ジョン・クレイマー自体は死んでるから、誰を中心に進めていくかだよね。でも今回の『ジグソウ』は脚本も演出も非常に良く出来ていたし、スピード感もリズムもとても良くて、本当に面白かったです。
吉川:『ジグソウ』でも、デザインは、引き続き背景が白いとか、それこそ『ソウ』のレガシー(遺産)は引き継ぎつつも、ちょっと色味を昔のシリーズと変えてみたりだとか。何か少しだけ変化を加えて、ちょっとだけ新しい感じでやっていけたらいいなとは思いますね。
ここでしか聞けない裏話が続々!『ソウ2』誕生の秘密
竹内:映画史上に残るカルト的なスリラー映画の代表作になった『1』が当たったもんだから、製作のライオンズゲートが即『2』を作って。別の映画の脚本を『ソウ』シリーズの枠組みにはめるために、1作目で脚本を書いたリー・ワネルとジェームズ・ワンに相談して、『ソウ』に換骨奪胎したんですよ。『2』はかなり独自な話になっているんです。『3』はもちろん『ソウ』シリーズのために書き始めていて、オリジナルメンバーのリー・ワネルとジェームズ・ワンは『ソウ3』まで参加してるんですよ。だから今観ると、『1』から『3』が一つのトリロジーになってると思うんですよね。それで『4』から『6』が一つのトリロジーで『ザ・ファイナル』が付け足し(笑)。『ザ・ファイナル』は総集編みたいになってると思うんですけど、『3』までは結構オリジナルだったんです。
物語を搔き回すFBI捜査官ホフマン、名前の由来が深い!
竹内:これまでの『ソウ』シリーズすべてを手がけた映画制作会社ツイステッド・ピクチャーズの3人のプロデューサー(マーク・バーグ、グレッグ・ホフマン、オーレン・クールズ)は今でもクレジットされていますね。グレッグ・ホフマンは『ソウ3』の制作中に亡くなってしまったけど、クレジットには必ずグレッグ・ホフマンの名前が入っているんです。リスペクトを込めて。だから、シリーズの後々に出てくるホフマン刑事って“グレッグ・ホフマン”からとったんじゃないかと(笑)。
吉川:『4』以降のホフマンのこと、あまり悪く言えないですね(笑)。
『ジグソウ:ソウ・レガシー』は往年のファンはもちろん、シリーズを観たことがない人も楽しめる!
吉川:やっぱり“ソウ:レガシー”って言ってるくらい、『ソウ』のテイストやスピリットは隅々まで込められている。みんなが期待するような“大どんでん返し”ももちろんあるし、期待以上のものが観られる映画だと思います。プラスα、今までなかったレーザーを使ったハイテクなトラップが出てきたり、昔からシリーズが好きだった人も十分楽しめるし、新しい映画としても楽しめる。戻ってきたなって感じがしています!
竹内:『ソウ』の枠組みを借りて、すごい良い脚本をうまく映画化していると思う。あまり「『ソウ』シリーズだから...」と思わずに、虚心坦懐に心を広くもって観ていただければ。“ソウ”すればこの映画は絶対楽しんでもらえる。あっという面白さで観終わってしまうんじゃないかなと思います。
映画『ジグソウ:ソウ・レガシー』は11月10日(金)より全国公開
【CREDIT】
出演:マット・パスモア、カラム・キース・レニー、クレ・ベネット、ハンナ・エミリー・アンダーソン、ローラ・ヴァンダーヴォート、マンデラ・ヴァン・ピープルズ、ポール・ブラウンスタイン、ブリタニー・アレン、ジョシア・ブラック
監督:スピエリッグ兄弟
脚本:ジョシュ・ストールバーグ、ピーター・ゴールドフィンガー
プロデュース:オーレン・クールズ、マーク・バーグ、グレッグ・ホフマン
配給:アスミック・エース
公式サイト:jigsaw.asmik-ace.co.jp
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