2002年7月、実際に日本で起きた「和歌山出会い系サイト強盗殺傷事件」を映画化した『愛の病』が公開中。この度、本作に出演する瀬戸さおり、岡山天音の2名による対談インタビューが到着した。作品作りにおける苦労や、お互い初めて共演して感じたことなど、赤裸々に語ってもらった。
和歌山出会い系サイト強盗殺傷事件とは
この事件の主犯格の女は、出会い系サイトで知り合った男から金を奪おうと計画を立てる。「私はヤクザの組長の娘。組長が月20万円払えば結婚を認めてくれる」などと嘘をつき、男の財産を毟り取った。味を占めた女の行動はエスカレートし、男に強盗殺人をするように仕向け、1名を殺害、1名に重傷を負わせた。男は強盗殺人未遂の容疑で逮捕され、女も同容疑で逮捕された。そして、2004年3月、2人の裁判が行われ、判決公判で両被告人に無期懲役判決が下った。男は上告せず、判決が確定。女は上告したが、上告は2005年12月12日に最高裁で棄却され、無期懲役が確定した。
主人公の殺人鬼役・エミコを瀬戸さおりが演じ、岡山天音、八木将康、山田真歩、佐々木心音、藤田朋子らが共演する監督を『女の穴』『スキマスキ』などで知られる吉田浩太が務める。
瀬戸さおり×岡山天音 対談インタビュー
──いよいよ公開を迎えました。率直なお気持ちは?
瀬戸:とてもワクワクしています。ぎりぎりまで追い込ながら、一丸となって作り上げた作品なので、観客のみなさんがどう思ってくださるのか、反応がとても楽しみです。
岡山:僕もお客さんのリアクションがとても気になります。台本を読んだ時や出来上がった作品を観た時に、僕個人として感じるものはありましたけれど、でも具体的に答えを出してしまう映画にはなっていないので、観る人によって受け取るものが全然違うと思うんです。僕が思ってもみなかったような感想を持つ人もいるでしょうし。たくさんの人に観てもらえたらと思います。
──脚本を読まれていかがでしたか?
瀬戸:実際の事件を調べていき、脚本を何度も読む中で、エミコの女性として共感できる部分や、逆に女性として嫌だなという部分が見えてきました。ショッキングな事件ではありますけれど、エミコの物語だと感じ、彼女を通して見えてくるものがあると思いました。また、人間だれしもが持っているであろう、弱さも見えました。
──具体的にエミコのどんな部分に共感したのでしょうか。
瀬戸:エミコは本能的に行動して生きているタイプだと思います。孤独と戦いながらも、好きな人に対してはすごく愛情を注いでいるんです。でも自分自身が愛情を注がれてこなかった分、娘に対してもどう接していいのか分からない。真之助に対しての愛情は歪んだものだったので、理解するのに時間がかかりましたが、アキラ(八木将康)への愛情は本当に素直でまっすぐで、そういった部分は愛おしく、可愛いと感じました。
──岡山さんは脚本を読まれてみていかがでしたか?
岡山:自分が演じると考えながら読み進めると興味が高まりました。ただ実際の事件を基にしていて、亡くなられている方もいるので、凄く繊細に向き合って演じていかなければいけないと思いました。真之助という役柄だけじゃなく、この作品全体のなかで、僕がどういう役割を担っているのか、そこをちゃんと把握しないと、踏み込んではいけないと思いました。
──真之助は“ゆかりん”を好きになりますが、ある時から、エミコがエミコ自身として現れます。“ゆかりん”とエミコは全く違う印象の女性ですけれど、真之助の愛は変わらない。その辺は理解できますか?
岡山:理解できます。もう真之助のなかでは、好きとかっていう括り方ではなくなってきているというか、アイデンティティというか真之助そのものを、エミコに掴まれちゃっている。でもそういうのって、日常的な恋愛の地続きにある感覚だと思うんです。僕自身はまだそういう地点に行ったことはありませんけど、でも全く想像できないことではありませんでした。だから、ざっくり分けたら、僕自身も真之助と同じジャンルに属しているんじゃないかなと思います。
──どういったシーンを覚えていますか?
瀬戸:特に印象深いのは、レストラン場面の後に続く歩道橋のシーンです。
岡山:撮影の順番としては、レストランの撮影の前に撮ったんですよね。あそこは吉田監督の現場にいるなというのをすごく感じました。
──吉田監督の現場というのは。
岡山:いろんな現場がありますけれど、台本の動きやキャラクターが喋っているセリフで成立する作品ではないというか。
──気持ちということでしょうか。
岡山:そういったものが映らないと先に進んで行かないものになっている。だからひとつひとつのシーンを素通りできないんです。歩道橋のシーンは撮影2日目あたりで、監督と話しながら回して止めて、また話して回して止めてというのを繰り返して。ひとつひとつの芝居を大事にしながらやっている感じがとてもしました。
瀬戸:順撮りではないので、気持ちを持って行くのには苦戦しました。監督がエミコの状況や真之助との関係性を、その都度細かくお話ししてくださって、それで撮っていったのですが、本気でぶつかり合わないといけないシーンばかりで、監督もまだ行ける!まだ足りない!という感じだったので、そこは大変でした。でもその域まで持って行くというのに、自分だけではなくて、相手から受け取るものがすごく大きいんだなというのを、とても感じた現場でした。
──大変な役での共演でしたが、お互いの印象は?
岡山:役とのギャップが凄くて。瀬戸さん、普段は腰が低いんです。だから正直、どんな人なのか分からないというか(苦笑)。あと、瀬戸さんは本読みのときから本番に近いエネルギーでいたので、ビックリしました。リハのときの僕はまだ真之助との距離感があって、セリフを返すだけでいっぱいいっぱいの状態だったので、瀬戸さんに押されてましたね。衣装合わせのときは腰が低い人だったのに(苦笑)。だからどういう方なのかよく分からないです(笑)。それに現場ではそんなに話してないですし。
瀬戸:そうですね。敢えて、距離をとっていたかもしれないです。
岡山:とりあえず目の前のことを全うしていかないと、という感じだったので。
──瀬戸さんからの岡山さんへの印象は。
瀬戸:とても目がまっすぐな方だと思いました。真之助としてもエミコをまっすぐな目で見てくださいましたが、衣装合わせのときにお会いした時からそうだったので、最初から真之助っぽいなと感じていました。
──最後に改めて、出来上がった作品をご覧になられて感じたことを教えてください。
瀬戸:エミコは孤独と戦っていたり、世の中と戦っていたり。逃げてもいるんですけど、最後の最後で孤独とどう向き合っていくのか見ていただきたいです。そこは観てくださった方に委ねている部分ですが、私自身、完成した作品を観て、それぞれの人間の弱さがすごく出ていると思いましたし、エミコは、やっぱり人間なんだなというのを感じました。愛を求めたり、認めて欲しいというのは、誰もが思うこと。母親だけど女性として見られたいとか、そういう彼女の気持ちが見えると思います。私としては、特に女性に観ていただきたい作品だと思っています。
岡山:ベースになった事件はありますが、でもオリジナルの作品になっていると思います。こうした作品が作られたということが嬉しいし、そこに関われて幸せです。世の中とか社会にとって、映画ってこういうものであって欲しいと思える作品になったと思います。関わることができて本当に嬉しいです。
映画『愛の病』はシネマート新宿ほか公開中
(C)2017『愛の病』製作委員会