『淵に立つ』にて第69回カンヌ国際映画祭ある視点部門審査員賞を受賞した深田晃司が監督を務め、日本・インドネシア・フランスの共同製作で贈る映画『海を駆ける』。人間の生活は自然と共にあるというさまを、国籍や宗教を越えて育まれる若者たちの友情とともに描き出す。
映画ランドNEWSでは、映画主演を務めたディーン・フジオカに、インドネシアの北端に位置するバンダ・アチェでのオールロケを振り返りながら、演じた“ラウ”というキャラクターの魅力、本作の魅力を語ってもらった。
──はじめて脚本を読んだ時の感想を教えてください。
ディーン:『海を駆ける』というタイトル通りに海を走っていく、文字で追っているだけだけど、そこで感じる走り抜ける爽快感みたいなものを強く感じたのを覚えていますね。この企画がインドネシアのバンダ・アチェで撮影するという話の方がインパクトが大きかったんです。当時はスマトラ島自体も行ったことがなかったし、特殊なアチェっていうエリアで撮影するっていうのが、勇気のある行為に思ったんです。
ディーン:自分の家族だったり周りの友人たち、僕自身も「アチェ」という響きに対してすごく遠く、インドネシアの中でも特殊なエリアで。しかも不安になるような、普通みんなあまり行かないような場所というのがすごく頭にあったので。そこで撮影するって・・・良い意味で“狂気”だなと思いましたね。システムが無い場所なので、「映画を撮影する」という機能を持っていない街にいろんなものを持っていかなきゃいけないないだろうって思ったし。あとは治安の問題とか。当時アチェのことをわからなかったから。人から聞く情報でしかアチェを知らなかったから。インドネシアの国内だと、どうしても内戦のイメージが強く残ってる。だから不安でしたね。「保険たくさん入らなきゃ」みたいな(笑)。
──“ラウ”という役に対してどのような感覚を持ちましたか?
ディーン:神秘的な要素のある役だったので「どうしよっかな~?」みたいな(笑)。でも、監督と初めてお会いして、キャラクターについても作品についてもお話して、いろいろ伺ったときに、監督と一緒につくっていく一種のアートインスタレーションだと思いましたね。その後もずっと、立ち振る舞いやセリフひとつひとつの届け方、姿勢とか細かいディティールを作っていきました。(深田監督と)一緒に輪郭をはっきりさせていった感じです。
──ディーンさんが意識した仕草や動きも、その中にありましたか?
ディーン:もちろん!監督が持っているイメージを、どれだけ具体的に表現できるかというのが大事だと思うので。そのお手伝いを全力でやらせていただきました。
──深田監督の第一印象を教えてください。
ディーン:今までの作品は撮影が終わってから観させていただいて。すごくニュートラルなカタチで、この『海を駆ける』という作品を一緒につくっていけたんじゃないかなと思っています。深田さんの為人(ひととなり)は、本当に映画が好きで好きでしょうがなくて、楽しんでいる印象が、最初から今も一貫してずっと持っています。深田さんが思う「どんなものをつくっていきたいのか」に対して、自分は「何が出来るんだろう?」「何に貢献できるのかな」って。その完成品を観るのが楽しみで。今こうしてカタチになって、今度は1人でも多くの人に届けていきたいです。
──映画を撮るシステムが無い場所での撮影も、深田監督は楽しまれていたのでは?
ディーン:だと思いますね。機材とかは全部ジャカルタから陸路で持っていったんじゃないかな。インドネシアのクルーと日本のクルーは相性が良かったですね。奇跡的なくらい。みんな良いものをつくるっていう、作品に対してのプロとしての想い。その想いと同じくらい、「良い思い出をつくる」、後で思い返したときに「楽しかった」と思える日々にするために、みんなが前向きに頑張っていた印象です。僕はその現場にいて、毎日楽しかったし、深田さんもにこやかで陽気にしていました。
──現場で、太賀さんや鶴田真由さんら共演者とはどのようなお話をされましたか?
ディーン:「どうやってゴハン食べる?」とか(笑)。ホテルのレストランで初めて一緒に食事したのかな?太賀くんは、すごく勉強家というか研究熱心。インドネシアの人はどうやってインドネシアのゴハンを食べるのか、それを「手で食べるんだよー」って話をしたり。作品の中でもすごく生かされています。本当にネイティブな感じで、ゴハンを食べるシーンとか、すごくナチュラルですよね。言葉の部分でも、すごく大変だったと思うんですけど、一緒にインドネシアの歌をみんなで歌ったり。阿部ちゃん(阿部純子)にしても、鶴田さんにしても、本当に現場を楽しんでましたね。そこでしか出来ないことをみんなが分かっていて、ちゃんとそれを吸収してエンジョイしていました。鶴田さんは、撮休の時に1人でジョグジャ(ジョグジャカルタ)まで旅行してたり。(劇中の)旦那さんがジョグジャ出身の設定だったからというのもあるだろうし、単純に好奇心もあっただろうし。すごいパッションですよね。
──2004年に起こったスマトラ島沖地震・津波の影響は各地に色濃く残っていましたか?
ディーン:そうですね。普通に会話していても、家族に被害者がいない人は居なかったと思います。大なり小なりですが。流されたものがそのままになってるところもあるし、逆に復興金で作ったであろう真新しいしっかりした建築物もありました。ある意味、爪痕を感じさせるっていうんですかね。
──現地の方の雰囲気はどうでしたか?
ディーン:とにかく、良く生きるっていう感覚が伝わってきました。決して、亡くなった方や傷ついた方のことを忘れずに、起こってしまったことをちゃんと受け止めて、それが神の望んだことだという風に。内戦が津波によって治まり、災害があったから人間同士が殺さなくてすむようになったという考え方も、自分にとってはすごく刻まれるような想い。そういう考え方もあるんだなと。内戦時代の暗い日常の話も諸処で聞きました。“人間の業の深さ”のようなものも感じれば、前に進んで行くことの希望のチカラも感じる。自然に倫理観のようなものはないですから。残された方々は、前に向かって、力強く生きている印象を受けましたね。
──まさに“ラウ”という役が、“自然”に近い印象を受けました。
ディーン:人生において、起こることすべては神のプランの中にあるという考え方は、インドネシアでは普通のことだと思うんです。インドネシアだけではなくて、信仰を持つ人っていうのは何か大きなことがあった時の、そのあとの立ち直り方っていうのに、すごく希望を持ている。何故かっていうと、やっぱり強い信仰を持っているからだと思うんですよね。それがないと、負のスパイラルに飲み込まれていくというか。
ディーン:インドネシアが、あれだけ大きな国土で分離されていて、人口も世界で4番目くらいに大きくて。そういうコミュニティをまとめる国家の運営の仕方として、信仰を必ず持たなければならない法律があるというのも前からすごく興味があった。アチェというところは、ほぼ100%に近いくらいインドネシアの中ではイスラム/メッカのようなところなんです。そこに滞在し、日常的にアチェの人たちからいろいろ話を聞いていて、とても興味深かった。新しく、災害のおかげで「人同士が殺さなくなって良かった」という考え方とか。自分にとっての新しい気付き、そういう考え方もあるんだなと思いましたね。
──現地で感じた部分も含め、今までのディーンさんが表現として活動してきたことが、演じた“ラウ”に活かせたことはありますか?
ディーン:あまり自分でもわかりません。ラウという役が、この世界をどういう風に見るかの、角度の違いのゲージになっていると思うんです。この作品を、特にラウにフォーカスをおいて観るのであれば、観ている人たちのそれぞれの人生を考えさせる存在だと思います。みなさんがどう思ったか聞かせてください。
──映画ランドはニュースサイトのほかにアプリもあるんです。映画のチケットが予約できるサービスを提供しているのですが、ディーンさんは普段劇場に映画を観に行きますか?
ディーン:日本ではほとんど行かないですね。映画館に行くのはインドネシアに居る時が多いですね。
──インドネシアの映画館はどんな感じなんですか?
ディーン:フラットでフカフカのソファーで、注文したら飲み物や食べ物が届いて、食事しながら、飲みながら。毛布掛けて、寝そうになるのを堪えながら観たりします(笑)。その場の雰囲気を楽しむというか。もちろん映画も楽しむし、昔でいうオペラを観にいくことに近いかもしれないですね。だからインドネシアで映画を観に行くのが好きで。映画館に行って、赤絨毯で、照明とか中の雰囲気も。チケット買うところから、廊下から少し非日常感があるというか。日常にある、ちょっとした特別な時間ですね。
──素敵ですね。『海を駆ける』と合わせて観るとオススメな作品はありますか?
ディーン:インドネシア絡みでいうと、やっぱり『ザ・レイド』ですかね。自分にとって、インドネシアで映画を撮るってこういうことなんだって。自分もいつかインドネシアで映画の撮影したいなと思っているので、そのキッカケになった作品ですね。あと、『アクト・オブ・キリング』という作品は、自分が日常で見て知っているインドネシアの違う側面から、インドネシアが見れた気がしました。『海を駆ける』と共に観て、またちょっと違った、より深いカタチで『海を駆ける』を楽しんでもらえるんじゃないかなと思います。
──今回撮影を行った「アチェ」という場所は、ディーンさんにとってどのような場所になりましたか?
ディーン:インドネシアの一部分ではあるんですけど、特にイスラム色が強いエリアですよね。内戦があったり特殊な背景がありますが、行ってみたらキレイな自然とインド洋の文化が強い街だなと思いましたね。インドの半島とか、アラブの半島とかを勝手に感じられるような気になっちゃうロマンチックな街だなと思いました。
映画『海を駆ける』は5月26日(土)より全国公開
ヘアメイク:新宮利彦(VRΛI Inc.)
スタイリスト:河田イソン(インパナトーレ)
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