『映画 太陽の子』の公開を記念したスペシャルトークイベントを、8月14日(土)、そして終戦記念日の8月15日(日)の2DAYSで開催。監督の黒崎博とプロデューサーの森コウが、そして15日のイベントにはプロデューサーの浜野高宏も急遽飛び入り参加し、本作の製作秘話、“8月の今”観るべき意味にも迫り、熱いトークが繰り広げられた。
【8月14日(土)】スペシャルトークイベント
全国公開が始まって丁度一週間目のイベントということで、登場した監督の黒崎は「緊張感が続いている。明日は終戦記念日(14日時点の発言のため)。この時期に観てもらえるのは、色々な意味を持っていると感じている」、プロデューサーの森は「元々、8月6日を越えたら、改めてここがスタートという気持ち。緊張感を持っている」と、それぞれの思いを明かし、トークイベントがスタートした。
企画のきっかけは、黒崎が広島の図書館で出会った若い科学者の日記からだったことは多くの場で語られているが、出来上がった脚本について、森は、「凄くセンシティブな内容。作った後どうなるんだろうか、ということを考えると日本国内では躊躇することが多いなと危惧した。だからこそ2019年だからこそ、海外との共同制作でできるのではと、進めた。」と、内容の扱いの難しさと実現のための過程を振り返った。
キャスティングについても公開前から評判になっているが、オファーに至ったきっかけや、理由を改めて質問。黒崎は、「柳楽さんは、『ディストラクション・ベイビーズ』で黙って人に殴りかかってくる役、『変態仮面』(HK 変態仮面 アブノーマル・クライシス)の柳楽さんも、素晴らしいですよね、撮影前後で何回も観ました(笑)。この振れ幅は素晴らしいなって」と、柳楽の演技力にかねてから注目。「有村さんは、(佇まいが)柔らかく、人間を決めつけない。田中裕子さんが作ってくれる現場の空気は、静かな、その時間を暮らしている空気を流してくれる。田中さんと演じることは、いい意味で緊張感があるけれど、それを受け止めてくれていたから、有村さんでよかった」と、有村の俳優としての現場での佇まいの素晴らしさを振り返る。
「三浦さんは、『真夜中の五分前』の佇まいが素敵だったことと、あとは舞台。オファー前後だったかと思うが、「キンキーブーツ」や「罪と罰」を観て、身体の動きに感情を乗せてしまうんだ、と感動した」と、卓越した表現力を改めて認識したという。また、視聴者から、「最初、山本晋也さんだとは気づかなかった」というコメントが投稿されると、黒崎は「十数年ぶりくらいに、お会いした。ホテルの喫茶店でお話させていただき、役柄の説明も聞いてくれて出演を承諾してくれた。(演じる世津の祖父・朝倉清三役は)第二次世界大戦前の日中戦争から知っている役柄ではないか、今だけでなく長い長い戦争時代を大きな目で見てくださっているかもしれない、そういう目線でのキャラクターだった」と、山本の役柄の設定についても触れた。続けて、「國村隼さんもイッセー尾形さんも大好きな俳優。(本作が)尖ったテーマでセンシティブなため、好意的な人もいれば、批判的な意見の人もいる。でも、“そういうコントラバーシャルな、意見が分かれるところを描くのが、<映画>でしょう”と、背中を押してくれたのが國村さん。また、そういうのを軽々飛び越えていくのがイッセー尾形さん。」と、ベテラン俳優陣に、背中を押されたことも明かした。
また、研究室メンバーについては、「三浦誠己さん(F研究のリーダー・木戸貴一役)が、“みんなで広島行かないと演じられません”と言ってくれて、それでみんなで広島へも行ってきてくれた。そういうステップ一つ一つをみんながやってくれて研究室の空気を作ってくれた」と感謝を交えながら話すと、森は「色々と、かなり大変でしたけれど(笑)、黒崎監督の前を向く気持ちに引っ張られる。じゃあ一緒にやりましょう、となる。客観的に見ていても、役についての質問なども的確だったので、みんな理解しているんだなと感じた」と、まさにそれぞれが持つ作品への愛あふれる現場だったことがうかがえた。また森は冗談まじりに、撮影許可が寸前で降りるなど黒崎の無茶ぶりを振り返り、「意外に、無茶なのだけれど優しさがあるというか、ギリギリで、ここはどうにかなるんじゃないだろうかという状況を作ってくる。それで結局飛び越えられる、結局できてしまう。このタイミングで言われたら、やらざるを得ないというタイミングで言ってくるんですよね(笑)」とプロデューサー泣かせな一面を明かした。
本編シーンについては、修(柳楽優弥)が大きなおにぎりを黙々と食べるシーンが話題にあがった。撮影について黒崎は「リハーサルも段取り取だけで、“よーいどん”で演じてもらっただけ。とにかくおにぎりを食べましょうと、と進めた。(撮影は山の上で)生で撮った虫や鳥の音も入っていて、(生命が)生きているから音に満ちている、世界は同じように生きている、戦争に関係なく命に満ちているということを主人公にフォーカスしようとした」と話す。まさに物語の展開を握る鮮烈なシーンとなっており、ぜひ劇場で見届けてほしい。また、当時、研究の目的で理系の学生が徴兵を免除されていた事実があったが、黒崎は「葉山奨之さん演じる学生が、志願したのに大学へ戻されるシーンがある。入隊検査ではねられて、大学に戻りなさい、という話があったわけだが、つまりそれは、先生が学生を呼び戻したことになる。それが倫理的に、善なのか悪なのか…それを実際にシーンに書き起こした」といい、まさにコントラバーシャルを描くことが映画だ、ということを実践していることにも触れた。
視聴者から「科学と戦争の倫理についてはどう思うか」と質問。森は「科学者が戦争を起こしているわけではない。科学者が進めていることの先にあることは、誰がその発明を利用するかで変わってきてしまう。科学者たちのモチベーション、それが必ずしも結びつくものではなく、戦争というのは科学とは別の理由で起こる。自分が劇中で、一番好きなセリフがあって、世津(有村架純)ら3人が縁側で話すシーンで、自分が働いている工場で手伝っている幼い女の子たちに将来のことを聞くと、“お嫁さんになってぎょうさん子ども作ってお国に捧げる”と言われたことを振り返って、『間違っている。大人たちが決めたこと、社会が彼女たちにそう言わせている』と反発する。ここが当時考えなければいけなかったことなんだな、と。まさに、社会を作っている大人たちに責任があると思う。」と答え、黒崎は「答えがないものなので、だから難しく、だからこの映画を作りたいと思ったという面もある。原爆開発が、戦争を早く終わらせた側面も結果としてあるが、それを勝った側と負けた側に分けてジャッジしてしまうと、どうしても、どちらか偏った結論に落ち着いてしまう。何が正解かわからないのものだから、日米合作にしたかったのもその理由で、勝者と敗者のストーリーにはしたくなく、それを飛び越えた視点に持っていきたかった。だからこの映画は独特で、誰かが勝った、間違えていた、とかを突き詰めていくものはない。それを選んだのは、どちらかを描いてしまえば、必ず“描けなくなったもの”があったから。だから、そこがこの映画の出発点だった」と続け、それぞれ、答えを出すのではなく、映画が持つ問いかけに対して、想像力を持って受け止めてほしいと、今観るべき作品として、熱い思いを語った。本配信は、共感シアター歴代最高の“7万6,000共感ポイント”を記録、作品への、関心・注目度の高さも伺えるイベントとなった。
【8月15日(日)】“太陽の小部屋”トークイベント@渋谷HUMAXシネマ
『映画 太陽の子』の公開を記念して、終戦記念日である8月15日(日)に、渋谷HUMAXシネマにて“太陽の小部屋”と題してトークイベントが開催され、黒崎博(監督)、森コウ(プロデューサー)、そして急遽飛び入り参加した浜野高宏(プロデューサー)が出席。一般の観客には初めて公開されるメイキング映像などを中心に本作について語り合った。三浦春馬さんが出演したシーンの映像に黒崎が言葉を詰まらせ、客席も涙に包まれる一幕もあった。
初公開のメイキング映像として最初に紹介されたのは、有村架純演じる世津が工場での労働で炉に石炭を入れるシーンの様子。この日が有村にとっては撮影初日となったが、森は「ものすごく暑い日だったんですが、有村さんの初日ということで現場もすごく緊張感がありました。(炉の)火はガスで燃やしていて、そこに石炭を入れていくんですが、閉めきっての撮影ですごい温度で、そこにいるだけでクラクラしちゃうくらいでした。有村さんはすごくストイックで、そんなに言葉は多くないけど、ポイントですごく鋭いことを言う、頭の良い方で、女優としての深さを感じました。この暑さの中で、監督は必死の表情を引き出すために長回しをするんですけど、有村さんは何度やっても『暑い』とか『苦しい』といった言葉をひと言も言わないんですね。感服しました」と絶賛する。
黒崎は「そもそも撮影のスケジュールは助監督が組むのですが、最初に何を撮るかってすごく大事なんです。(助監督の組んだスケジュールを見て)なるほど、ここからやるのかというスタッフの意思を感じました。実際に(本編で)使うのは30秒くらいなんですけど、10~15分くらいずっとやってて、『よーい、どん』でお芝居を始めて、だんだんお芝居をしているという感覚がなくなって、『手が痛い』とか『暑い』とか『息ができない』とかを通り越して出てくる表情があるんですね。有村さんはそれをわかってくれているから、2分を超えたあたりから『これ来たな…』と思っていたと思います(苦笑)。カットがかかったときは、鼻まで煤で真っ黒でしたが、当時は小学生からみんな、当たり前にそれをやっていたんですね。せめて最初にこういうテイクがあってもいいんじゃないかと思ってやっていました」と意図を明かし、それを理解した上で見事にやり切った有村への感謝と敬意を口にした。
続くメイキング映像では、柳楽優弥が演じる修が数式を延々と書き続けるシーンを紹介。黒崎は柳楽が劇中で着用しているメガネについて言及。「キャラクターを決めていく中でいろいろ試して決めました。このメガネに白衣の扮装をすると柳楽さんにスーッと役が降りてくる瞬間があるのを僕も感じていました」と語る。さらに柳楽について「目がとてもよくて、鋭いけど優しいピュアな目をしていて、それを撮りたかった」とこの数式のシーンを入れた意図を明かしたが「申し訳ないことに、このシーンは撮影当日の朝、思いつきました」と告白。現場の物理監修の協力者に数式の作成をお願いし「ごめん、これ全部覚えて」と柳楽をはじめとする研究チームのメンバーに撮影直前に紙を渡したと明かし、客席は驚きに包まれていた。
そして最後に紹介されたのが、三浦春馬演じる裕之と修、そして世津が久々に家で顔を合わせ、兄弟で食卓を囲むシーン。映像からは和気あいあいとした現場の雰囲気が伝わってくる。森は「柳楽さんと三浦さんはこの映画の中では腹違いの兄弟ですが、元々、2人は小さい頃からオーディションで会ったりして、お互いに知ってるんですね。この映画の中では、いい感じの兄弟でありながらライバル心もあったりする絶妙な関係性なんですが、それは日々、2人だけで構築していったものです。もっと二人を一緒に見たかったなって思います…」と言葉を詰まらせる。このシーンについて話を振られた黒崎だが、涙で言葉が出てこず、その様子に客席からもすすり泣く声が…。
浜野は「この作品の舞台になった夏もきっと暑かったと思います。周りでは人がいっぱい死んで、さらに原爆で大変な思いをしている人たちがたくさんいて…ということを主役の3人は一生懸命考えたんじゃないかと思います。それを監督がまとめていってこういう映画ができました。我々としてはそれをちゃんと未来に繋いでいく――いろんなことを考え、懸命に演じてくれた3人がいて、残してくれた作品があって、それを僕らが伝えて、観てくださる方々がいて、それをまた次の人に繋いでいくということになったらいいなと思って作った映画です」と改めて本作に込めた想いを口にする。
黒崎は言葉を詰まらせながら「このシーンは、和やかに見えて、実はすごい緊張感がありました。(裕之が)帰ってきて初めてご飯を食べているところで、どれくらいの温度感でやったらいいのかをみんなが探り合っているんですね。僕も、あの時の演出家としての緊張感はいまでも覚えているんですが、春馬くんが現場に振りまくエネルギーが毎回、こういう(明るい)感じで、それにすごく救われたし、役とピッタリなんですよね。映画の中で弟の裕之に兄貴が引っ張られていきますが、まさにその通りで、柳楽くんもそこに心地よく身を委ねて演じていたし、有村さんも2人の様子を静かに見ながらリアクションしていくという、いいコラボレーションが生まれた現場でした。『いい兄弟だなぁ…』と思いました」と撮影の日々に思いを馳せていた。
森は最後に「8月15日の終戦記念日ということで、先日、柳楽くんがすごく良い言葉を言っていて、僕もその言葉がずっと胸に突き刺さって、改めて共有させていただきたいと思うのですが、8月6日の広島、9日の長崎…忘れちゃいけないことがあると思います。僕らはここに出てきたキャラクターたちをこうして作品に投影させたので、みなさんずっと覚えていって下さればと思います。そうすれば彼(三浦さん)の思いも報われると思うので…」と声を詰まらせながら呼びかけ、会場は温かい拍手に包まれた。未来について考え続けることが大切になっている今、是非映画本編を鑑賞して、それぞれが考えるきっかけを見つけてほしい、という願いもこめて2DAYSイベントは終了した。
『映画 太陽の子』は絶賛公開中
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