全世界待望の大人気スパイ・アクション・シリーズ最新作『ジェイソン・ボーン』が10月7日(金)に公開となる。前三部作で元CIA最強のエージェントを演じたマット・デイモンが引き続きタイトル・ロールを演じ、9年ぶりにポール・グリーングラス監督と再タッグを組む今作。『ボーン・アルティメイタム』で全ての記憶を取り戻したかに思えたジェイソン・ボーンが、自らの父親の謎を追うため、再び立ち上がるさまを描く。
今回はシリーズ作品を振り返り、主演マット・デイモンが画面狭しと駆け抜ける追走劇や、リアリティ溢れるアクションの魅力、そしてポール・グリーングラス監督の手腕についてまとめていく。
アクション映画に新機軸を打ち出した「ボーン」シリーズとは
「ボーン」シリーズは、記憶をなくした元CIAのエージェント:ジェイソン・ボーンが、自分は何者なのか、なぜCIAで人間兵器にさせられたのかという謎を追うスパイ・アクション映画である。シリーズを通してリアリティと臨場感を追求しており、元祖スパイ映画の代名詞とも言える「007」シリーズでも「ボーン」の撮影手法などを取り入れている。
それまでの荒唐無稽さが売りだったアクションから一転、ダニエル・クレイグが6代目ジェームズ・ボンドとなった『007 カジノ・ロワイヤル』(2006)からは、リアリティを追求したアクションに仕上がっている。「007」シリーズをはじめとして後の多くの作品に影響を与えたシリーズの最新作公開に備え、まずは過去作をおさらいしておこう。
『ボーン・アイデンティティー』(2003)
あらすじ:一人の男が海を漂流している印象的なシーンから始まるシリーズ第1作。男は漁船に救助されるが記憶を失っており、体には銃で撃たれた傷、皮下には銀行の口座番号が埋め込まれていた。銀行に預けられていたパスポートから、自分は「ジェイソン・ボーン」という名前だということを知るが、そこには自分の顔写真が貼り付けられたいくつもの偽造パスポート、様々な国の紙幣、そして拳銃が入っていた。ボーンはなぜか追われる身となり、追跡から逃れる過程で、自分が武術や観察力など人並み外れた能力を持っていることに気付く。自分は何者なのか、そして「トレッド・ストーン作戦」とは…謎を紐解く旅が始まる。
ポイント:本作ではパリの街中での追撃戦や大迫力のカーチェイスはもちろん、ペンなどの身の回りのものを利用したリアリティ溢れるアクションが大きな話題となった。監督・製作は『Mr.&Mrs. スミス』(2005)や『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014)で知られるダグ・ライマンが務めており、多くのシーンで自らカメラを回している。
『ボーン・スプレマシー』(2005)
あらすじ:前作から2年、ボーンは共にCIAの手から逃れたマリー(演:フランカ・ポテンテ)と暮らしていた。しかし、再びCIAからの刺客が現れ、マリーが射殺されてしまう。愛する人の復讐のため、そして未だにうなされ続ける過去の任務の記憶を取り戻すため、再びボーンはCIAに立ち向かう。
ポイント:今作からダグ・ライマンは製作総指揮となり、ポール・グリーングラスが以降のシリーズ監督を務める。監督は前作でも追求されたリアリティを更に高めるため、格闘シーンで手持ちカメラを用いたり、カメラを車と一緒に動かしたりすることで、まるでその出来事が目の前で起こっているような臨場感を演出することに成功した。従来の映像とは一線を画すスリル溢れる展開を生み出した「ボーン」シリーズの革新的手法から、ポール・グリーングラスのこだわりが窺える。
『ボーン・アルティメイタム』(2007)
あらすじ:前作『ボーン・スプレマシー』のラスト・シーン10分後の時間軸から始まる三部作の最終章。ボーンはトレッド・ストーン作戦の黒幕を探すため、作戦の暴露記事を書いている新聞記者に接触する。しかし、不都合な事実の流出を恐れたCIAは、ボーンたちを口封じのために消そうとする。また、その裏では政府による承認なしでの暗殺を容認する「ブラック・ブライヤー作戦」が動いていた。遂にボーンが自らのアイデンティティーを取り戻す。
ポイント:ニューヨークでの街中でのカーチェイスや、実際に一般の利用客がいる中で撮影された冒頭のウォータールー駅での追撃戦、カミソリ対タオルでの戦いなど、シリーズの象徴とも言える要素は健在。その上でシリーズで培ってきたリアリティや臨場感へのこだわりを最大限に発揮した今作は、第80回アカデミー賞で編集賞・録音賞・音響効果賞と堂々の3部門受賞した。
『ボーン・レガシー』(2012)
あらすじ:時間軸は『ボーン・アルティメイタム』と並行して進む。ボーンとは別の「アウトカム作戦」で人間兵器とされた、アーロン・クロスを主人公としたスピンオフ。前作冒頭での暴露記事や内部告発により、トレッド・ストーンやブラック・ブライヤー以外の作戦も白日の下に晒されることを恐れ、作戦参加者が消されていく。クロスは暗殺の手を逃れるが、改造された精神と身体を保つためには特殊な薬が必要となる。クロスは追手から逃れ、薬を求めてフィリピンのマニラへと渡る。
ポイント:アカデミー賞作品賞を受賞した『ハート・ロッカー』(2009)や、『アベンジャーズ』シリーズのホークアイ役で知られ、今年12月に日本で初開催となるコミック・コンベンションでの来日も決定したジェレミー・レナー主演。『ボーン・アイデンティティー』から脚本を務め続け、シリーズを知り尽くしたトニー・ギルロイがメガホンを取った。前3作の街中とは異なる極寒のアラスカでのサバイバル、マニラの異国情緒溢れる風景が見所である。CG・ロボット・本物のオオカミを全て駆使した、人間対オオカミの戦いも必見だ。
リアリティとスリルで魅せる「ボーン」シリーズ
「ボーン」シリーズの特徴といえば、マット・デイモン自らがほとんどスタントを使わずに挑む対人アクションや、多くの人が行き交う街中で繰り広げられるカーチェイスなどが挙げられる。カメラワークの妙によって、観客はボーンと共に世界を股にかけるスリルを味わうことができ、アクション映画として圧巻のクオリティを誇る。
〈元CIAお墨付きのリアリティ〉
まず、対人アクションに関しては、軍隊格闘術をメインに複数の武術の動きを取り入れている。ペンやタオルなど身の回りの物を使用するのはそのためで、華麗な動きよりも、その時の状況から臨機応変に、確実に相手を倒すことを最優先にしているのだ。特に『ボーン・アイデンティティー』のペンを使ったシーンは、元CIAのエージェントにもお墨付きをもらっており、マット・デイモン自身も「どんなシーンでも自分自身で演じる。体を鍛えて何でも挑戦する。」と語っている。『ボーン・アイデンティティー』の頃からボクシングのトレーニングを続けているそうで、「ボーン」への思い入れを推し量ることが出来る。
〈スリル満点の追走劇と言えばこの人:マット・デイモン〉
『ボーン・スプレマシー』のモスクワでのカーチェイスや、『ボーン・アルティメイタム』で隣の家屋の窓へ突っ込むシーンに代表されるように、スリル満点の追走劇としても楽しむことが出来る。特に、ハリウッドの大手スタジオがモスクワであれほど大規模なカーチェイスをするのは初めてだったそうだ。撮影自体も雪や寒さ、車の故障に悩まされながら完成させた渾身の映像である。
世界中を縦横無尽に駆け抜けるジェイソン・ボーンだが、「オーシャンズ」シリーズや、口髭を蓄えたカウボーイ姿で、賞金首を追う誇り高きテキサス警備隊員を好演した『トゥルー・グリット』(2011)など、マット・デイモンは追走劇への出演が多い。そうした作品の中でも、「ボーン」シリーズに並ぶほどマット・デイモンが疾走する作品として『アジャストメント』(2011)を取り上げてみよう。本作は、続編の情報が出る度にメディアを賑わす『ブレードランナー』(1982)や、後日譚がドラマ化されたばかりの『マイノリティ・リポート』(2002)に代表されるような、フィリップ・K・ディックの小説を原作としたSF作品である。
しかし、この2作のダークな雰囲気とは少し趣が異なるのが『アジャストメント』だ。マット・デイモンが上院議員候補のデヴィッドを演じ、ヒロインはエミリー・ブラント扮するエリース。物語は、決められた運命通りに人生を送るよう遂行する「調整局」と呼ばれる組織に拉致され、エリースと「結ばれてはいけない」と告げられたデヴィッドが運命に抗うさまを描く。本作では、何度も挫けそうになりながらもエリースを追いかけるデヴィッドと調整局の間で、ニューヨーク中を舞台にした追走劇が展開される。観客はいつの間にか傍でデヴィッドを応援している気分になるのではないだろうか。そしてエリースもまた同様にデヴィッドに運命を感じ、互いに恋焦がれる様子が描かれ、胸を締め付けられるようなラブストーリーにもなっている。
時代を切り拓いた男、ポール・グリーングラス
最新作でも引き続きメガホンを取るポール・グリーングラスは、イラク戦争下で大量破壊兵器の謎を追うさまを描いた『グリーン・ゾーン』(2010)でもマット・デイモンとタッグを組んでいる。また、『ボーン・アルティメイタム』後にスピンオフではない続編の話が一度持ち上がり、グリーングラスが降板した際にも、マット・デイモンに「彼なしでの出演は考えられない」と言わしめるほど信頼も厚く、今やシリーズに欠かせない存在である。
そんなグリーングラスが監督に起用される決め手となったのは、1972年に北アイルランドで起きた「血の日曜日事件」を題材とした作品『ブラディ・サンデー』(2002)である。イギリス陸軍落下傘部隊により、デモに参加していた市民27名が銃撃され、うち14名が死亡した痛ましい事件を、イギリスと北アイルランド両者の目線から描いた作品だ。
本作ではグリーングラス監督の特徴でもあり、「ボーン」シリーズでも見られるリアリティと臨場感へのこだわりが遺憾なく発揮されている。実際の市民や作戦に参加した英軍の元兵士を起用し、作り物のように見せないために照明を当てず手持ちカメラを使うことで、その場に居合わせて撮影したような映像にするなど、当時の様子を克明に描き出した。グリーングラス監督自身はイギリス人だが、イギリス側だけでなく、北アイルランドのデリー市民の協力を得ていることからも、その熱意が両者へ伝わったことが窺える。結果として、本作は第52回ベルリン国際映画祭で『千と千尋の神隠し』(2001)と共に最高賞である金熊賞の栄誉に輝いている。
最新作『ジェイソン・ボーン』の見所
そして遂に、長い沈黙を経てジェイソン・ボーンがスクリーンに帰って来る。キャストとしては、新しい風を取り入れた上で豪華な顔ぶれとなった。まず、ボーンを追う野心家のCIAエージェントを演じ、シリーズの大ファンを公言しているアリシア・ヴィキャンデル。『リリーのすべて』で第88回アカデミー賞助演女優賞を受賞し、マイケル・ファスベンダーと共演する『The Light Between Oceans(原題)』や、リブート版『トゥームレイダー』の新ヒロインにも抜擢されたアリシアは、マット・デイモンが今もっとも仕事をしたい女優だという。
また、過去作ではクリス・クーパーやジョアン・アレン、ブライアン・コックスといったそうそうたる面々が演じてきた、ボーンを追うCIA側の指揮官を『メン・イン・ブラック』シリーズで知られるトミー・リー・ジョーンズが演じる。2人は旧知の仲で、トミーが自らの監督作にキャスティングしたギャラによってマット・デイモンは生活をつなぎ、ベン・アフレックと共に『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1998)の脚本を書き上げることが出来たそうだ。そして、シリーズファンにはお馴染みのニッキー・パーソンズ役として、ジュリア・スタイルズも続投する。
『ボーン・アルティメイタム』の2007年から多くの状況が変わった。当時は創世記だったソーシャル・メディアも大きな発展を遂げ、米大統領もブッシュからオバマに変わった。この約9年の中で、ボーンがどう生き抜いてきたのか、また世界の現状をどう思っているのかといったことを、マット・デイモン自身が知りたかったという。こうした「作品が時代に合っているのか」という点は、シリーズ当初から意識していたそうだ。『ボーン・アイデンティティー』の際も、当初はラストに爆破シーンを入れる予定だったが、9.
映画『ジェイソン・ボーン』は10月7日より全国公開
【CREDIT】
監督:ポール・グリーングラス
出演:マット・デイモン、ジュリア・スタイルズ、アリシア・ヴィキャンデル、ヴァンサン・カッセル、トミー・リー・ジョーンズ
配給:東宝東和 公式サイト:BOURNE.jp
©Universal Pictures