『チャップリンからの贈りもの』 グザヴィエ・ボーヴォワ監督インタビュー「私は神は信じていませんが、チャップリンは信じています」

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前作『神々と男たち』(2010)でカンヌ国際映画祭グランプリを受賞したグザヴィエ・ボーヴォワ監督が、1978年にスイスで実際に起こった喜劇王チャールズ・チャップリンの遺体誘拐事件を映画化した『チャップリンからの贈りもの』が7月18日(土)より公開される。

『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人たち』などで知られるミシェル・ルグランによる音楽が彩る本作は、チャップリンが映画を通して私たちに伝えてきた、社会的弱者への慈悲深く優しいまなざしや深い人間愛を受け継いだヒューマン・コメディだ。

実話を事実としてレポートするように描くのではなく、寛容な心で人々を見つめ、ひとつのおとぎ話として仕立て上げたボーヴォワ監督に、本作について、そしてチャップリンへの想いを伺った。

PROFILE
グザヴィエ・ボーヴォワ監督(48歳)
1967年北フランス生まれ。 パリへと移り映画監督を志す。 アンドレ・テシネ、マノエル・ド・オリヴェイラのもとでアシスタントとして働き始める。23歳でデビュー作「Nord」(91)の脚本、 監督、 出演を務めセザール賞最優秀デビュー賞にノミネートされる。続く「N’oublie pas que tu vas mourir」(95)では、カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞し、 名誉あるジャン・ヴィゴ賞にも輝いた。『マチューの受難』(00)、 「Le Petit lieutenant」(05)はヴェネチア国際映画祭に出品され、 『神々と男たち』(10)で世界的な評価を獲得。 同作は第63回カンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリに輝いた。 世界中で称賛を受け商業的にも成功を収め、 セザール賞で作品賞を受賞した。

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──犯人が移民ということが物語に大きく影響していると思いますが、当時の社会的背景や庶民の様子についてお教えいただけますでしょうか。

グザヴィエ・ボーヴォワ フランスではなくスイスで起こった事件なのですが、実はフランスとスイスでは状況が異なっています。スイスは本作でも見られたように、移民を街の中に溶け込ませて住まわせました。ところが、フランスの場合は郊外にまた別の街を作らせ、いわゆるゲットーのようにしてしまいました。スイスは移民を受け入れた時に最初から滞在許可を与えていましたが、フランスはそれをすぐには与えませんでした。現在と異なり当時は、フランスが必要だから労働力として彼らを来させたという側面がありながら、しかし、滞在許可・労働許可を降ろさなかったのです。私はこれがそもそもフランスの間違いだったと思います。やはり労働力として来させたからには、フランスは街の中に彼らを住まわせるようにして、街の外に追いやるべきではなかったと思います。それが、そもそも今のフランスに起きている様々な事件の根源だと私は思っています。

──現代にあってのチャップリンの偉大さ、存在の大きさを感じさせる作品でした。それはまるで前作『神々と男たち』で描かれていた神、あるいは宗教に近いような偉大な存在のようでした。監督にとって、チャップリンとはどのような存在でしょうか。

ボーヴォワ 私は神は信じていませんが、チャップリンは信じています。チャップリンの映画に出てくる言葉というのは、私の前の映画『神々と男たち』の中で修道僧に語らせてもぴったりくるようなセリフが実は多くあります。チャップリンの映画『独裁者』の最後のスピーチなどは、例えば宗教家が言っても本当に素晴らしいものになっていただろうと思いますし、そういう意味でやはり彼は偉大な存在だったと思います。

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──墓から遺体を掘り出すシーンで、『ライムライト』の曲を一部アレンジした幻想的な音楽が使用されているのが印象的でした。

ボーヴォワ なぜあれを使ったかと言うと、お墓から掘り起こした時にチャップリンの魂がもう一度表舞台に出てきたという感じに思えたからです。それで私は彼が表舞台に出てきたというのは、『ライムライト』の曲に乗って出てきたのだという風に考えることにしました。掘り起こされたことによって、生き返ったわけではないですが、やっぱりチャップリンが出てきたということです。私は、遺体を盗むという奇妙奇天烈なことを行う人がいたということを、全体として喜劇的な作品として作り上げたかったのです。例えば刑事ものやサスペンスものでしたら、あのような場面では非常に暗い感じの音楽になるかと思いますが、そういう風にはしたくなかったのです。

──サーカスでエディがパントマイムをするシーンは、どのように主演のブノワ・ポールヴールドさんと作り上げていかれたのでしょうか。

ボーヴォワ あれは本当のサーカスの出し物でした。私はそれを見てそのまま映画に使おうと思いましたが、エディを演じたブノワには、道化師、クラウンの役は絶対にやりたくないと当初断られてしまいました。赤い鼻を付けたいわゆるクラウンではないと説明しても拒絶されました。ですが、一度そのサーカスを実際に一緒に見に行ったところ、そのパントマイムのシーンを見て、「これだったらやる」と言って、あのようなシーンができあがりました。ただ、ショーでは一度演じるだけですが、映画では20~30回同じ動きをやるわけです。そうしたら、本当のスポーツのようになってしまい、ブノワは翌日は筋肉痛だと大騒ぎしていましたよ。

ポスターチラシ表

【公開情報】
監督:グザヴィエ・ボーヴォワ
音楽:ミシェル・ルグラン
出演:ブノワ・ポールヴールド、ロシュディ・ゼム、キアラ・マストロヤンニ
英題:The Price of Fame/フランス映画/シネスコ/115分/カラー/5.1chデジタル/字幕翻訳:齋藤敦子
公式サイト:Chaplin.gaga.ne.jp
(C)Marie-Julie Maille / Why Not Productions

7月18日(土) YEBISU GARDEN CINEMA、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー

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