2月9日(木)より開催中の第67回ベルリン国際映画祭において、パノラマ部門&ジェネレーション部門の2部門に選ばれる快挙を成し遂げた『彼らが本気で編むときは、』が、同映画祭で上映されたLGBT(セクシュアル・マイノリティの人たち)をテーマにした全37作品の中で、優れた作品に与えられる“テディ審査員特別賞”を受賞。1987年に同賞が創設されて31年、邦画作品として初めて受賞する快挙となった。
本作は、2013年の一つの新聞記事に掲載された「トランスジェンダーの子どもを持つ母親が子どものためにニセ乳を作る」という心温まるエピソードから着想を得た、荻上監督によるオリジナル脚本でおくるヒューマンドラマ。物語は、元男性でトランスジェンダーのリンコ、育児放棄された子どものトモ、リンコの恋人でトモを温かく見守る叔父のマキオの3人による形に囚われない家族を描く。
女性として人生を前向きに生きようとしているトランスジェンダーのリンコ役に生田斗真、その恋人・マキオ役に桐谷健太、母親に置き去りにされた少女・トモ役を柿原りんかがそれぞれ演じるほか、マキオの姉でありトモの母親・ヒロミ役にミムラ、リンコの母親・フミコ役に田中美佐子、トモの同級生の母親・ナオミ役に小池栄子、リンコの職場の同僚・佑香役で門脇麦が共演する。また、マキオとヒロミの母親・サユリ役を11月11日に亡くなったりりィが演じている。
日本国内のLGBT人権活動はまだ産声を上げたばかりだが、LGBT人権について深く感銘を受けているドイツの地で、ベルリン国際映画祭“テディ審査員特別賞”を日本作品が受賞したことは、社会的にも、文化的にも、大変意義のある大きな第一歩となった。
受賞式に出席した荻上監督は「ベルリン国際映画祭の全作品の中で、LGBTを題材にした映画に贈られる特別な賞なので、この“テディ審査員特別賞”は、非常に嬉しいです。でも私は、正直、トランスジェンダーの人がトランスジェンダーのことで悩んでいるだけの映画は作るつもりは最初から無くて」と語り、「『女性として普通に』恋愛をし、仕事をし、生活を営んでいる『普通の女性』を描きたかったんです。差別されたり、理解されなかったり、陰口をたたかれたり、傷つけられたり、大きな悩みを抱えながらも、前向きに生きる『ひとりの女性』を、です。トランスジェンダーの人でも心は女性なのだから母親になれるかもしれないという夢を見れることや、血の繋がりがなくても親子になれる希望が持てることや、子どもを産まなくても母性を持てることや、さらに『その恋人』や『その家族』、『母親と子ども』の関係性を一番描きたかったんです」と述懐。
「この映画が『さまざまな家族のカタチ』を受け入れたり、考えたりすることのきっかけになって欲しいんです。今まで持っていた『普通』の概念を見直すきっかけになれれば嬉しいです。この映画をみて、LGBTに対する理解を深めてほしいと心から願っています。ベルリン、Danke schön!(ありがとう!)」と締めくくった。
日本人としてただ1人の審査員である今井祥子は「審査員全員一致での決定でした。審査員の中でも一番絶賛されたのが、『彼らが本気で編むときは、』が、子どもの目を通して、セクシュアル・マイノリティの家族を描いた点です。そして、観ているだけでお腹が空きそうな料理の数々や、日本に訪れたくなる美しい桜並木など、荻上監督の独特のディテールは、外国人審査員の心をさらに掴んでいました。日本作品でありながら、世界に十分アピールできる『家族の物語』になっていましたし、その証拠に、一般の観客の評判がもっとも良い作品だったことも、私たちが納得して『テディ審査員特別賞』を授けるのにもっとも相応しい作品だと思ったのです」とコメントしている。
日本でも文部科学省選定作品として、少年向き・青年向き・成人向きの部門に選出。さらに、日本国内で初めてパートナーシップ証明書を導入したLGBT先進自治体である渋谷区および渋谷区教育委員会が、本作を初の「推奨作品」とするなど、国内外で多くの評価と支持を続々と集めている。
映画『彼らが本気で編むときは、』は2017年2月25日より全国公開
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出演:生田斗真、桐谷健太、柿原りんか、ミムラ、田中美佐子、小池栄子、りりィ、門脇麦 ほか
監督・脚本:荻上直子
配給:スールキートス 公式サイト:http://kareamu.com
© 2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会