1996年に映画『キッズ・リターン』で俳優デビューして以来、国内外問わず様々な作品で圧倒的な存在かを放ち続けてきた安藤政信。今年はドラマ「ストリートワイズ・イン・ワンダーランド~事件の方が放っておかない探偵~」で探偵役を、『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』では脳外科医、『スティルライフオブメモリーズ』ではカメラマンを演じ、最新出演作の『きらきら眼鏡』では池脇千鶴演じる大滝あかねの恋人で余命宣告を受けた木場裕二を演じている。役作りのために相当な減量をして挑んだという本作への想いを語ってもらった。
──“最後の1ページまで切ない”と絶賛された本作ですが、最初に台本を読んだときの感想からお聞かせ頂けますか。
安藤:まずタイトルの『きらきら眼鏡』とは何なんだろうと疑問に思うところから入ったんですけど、台本を読んでみてとても素敵な物語だと思ったので是非お受けしたいと快諾しました。
──“きらきら眼鏡”というのは“見た物を全て輝かせる眼鏡”だと劇中であかねさんが言いますが、大人になってそういう風には世界を見れなくなってしまった自分に気付いて凄くハッとさせられました。
安藤:そうですか?僕は逆にあかねの気持ちがよくわかるんです。だからきっとピュアな心の持ち主なんじゃないかなと自分では思ってるんですけど(笑)。あかねみたいにきらきら眼鏡をかけて世の中を見ていますし、なんなら千鶴の役を僕が演じたかったぐらいです(笑)。
──確かに安藤さんは年齢を重ねてもどこか少年っぽさを宿されているような雰囲気があるので妙に納得できてしまいます。先ほど台本を読まれて素敵な物語だと思ったとおっしゃいましたが、観終わったあとにじんわりと心が温かくなるような優しい物語でもありますよね。
安藤:ほんとにその通りで、人間の愛や優しさに触れると涙腺が弱くなるのか台本を読んで泣きましたね。20代の頃はこういった温かい作品に素直に感動できなかったんですけど、年齢を重ねていくにつれてどんどん涙もろくなってきて、いまは誰かが幸せそうに笑ってる姿やちょっとした人の気遣いを感じるシーンですぐにジーンときてしまうんです(笑)。本作は無機質に思えた世界からだんだんと温度を感じられるような展開になっているので、そういうところも素敵だなと思いました。
──船橋市の方々の協力を得て製作されたそうですが、現場で市民の方々の熱量を感じることも多かったのではありませんか?
安藤:そうですね。自分達が住んでいる地域で映画を作ることに対しての喜びやエネルギーとうのは船橋市の方々から凄く伝わってきました。秋田県でも某作品の撮影をしたんですけど、その時も地域の方々がとても協力的で円滑に進めることができたんです。本作の撮影では僕は病室が多かったんですけど、エキストラとして参加してくださった方が重要な役として裕二にある言葉を告げるシーンもあって、そういうことも新鮮に感じました。参加してくださった方の熱量や想いみたいなものは必ず作品に反映されますし、しっかりと映像に残っていると思います。
──昔ご病気の老人が、とある映画のエキストラに参加したら途端に元気になったという話を聞いたことがあります。
安藤:映画作りに参加して元気になってくださるなんて、こんな嬉しいことはないですよね。そういった方々に少しでも映画作りの楽しさを味わって頂きたいので、これからも地域×映画のプロジェクトが沢山立ち上がっていくといいなと。
──映画作りに参加された方が元気になった話をしておいてなんですが、裕二さんは余命わずかの役で…。
安藤:僕の役は元気にならなかったですね(笑)。
──『コード・ブルー』の撮影後ということで命を救う側から救われる側になったとコメントされてらっしゃいましたが、余命わずかな裕二という役と向き合われるのは心身ともに大変だったのではないですか?
安藤:自分でもよくやりきったなと思いますけど、それ以上に千鶴があかねとして献身的に裕二と向き合ってくれたのが大きかったなと。彼女は本当にお芝居が上手いし、あかねの台詞が自然と僕の中に入ってくるのでこちらもしっかりと気持ちが作れるんです。千鶴にしかあかねを演じられないんじゃないかなと心から思います。
──安藤さんと池脇さんの共演はお二人のファンにとっても映画ファンにとっても期待度マックスだと思います。
安藤:そう言ってもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです。
──そこに主人公の青年・立花明海役を演じた新人の金井浩人さんが加わるというのもとても新鮮でした。
安藤:金井くんのお芝居は自然で凄く良かったです。普段の彼の人柄がいいからああいうお芝居ができるんだろうなと感じました。
──金井さんからお芝居について安藤さんにアドバイスを求められることはあったのでしょうか?
安藤:そういうことは全くなかったです。金井くんはしっかりとお芝居のプランを立てて現場にきていましたし、この作品の世界観に徹底して入りこんで演じていたように思います。
──そんな金井さんが演じた明海くんとあかねさんが古本屋がきっかけで出会うというのも素敵でした。
安藤:役者をやっているとなかなかそういった素敵な出会いは周りからも聞かないので、古本屋がきっかけってもしかしたらあるのかもな〜と単純に思いました(笑)。そういった特別な出会い方じゃなくても、たまに街でサラリーマンとOLさんが仲良さそうに話しながら歩いているのを見かけると、この二人は付き合ってるのかな?なんて妄想することがあるんです。このまま彼らのあとをつけてみたらどうなるかなとなんとなく思ったり(笑)。
──それは探偵の役を演じていた時期だったからではないですか(笑)?
安藤:その通りです(笑)。
──安藤さんはいつもストイックに役作りをされているとお聞きしたことがあるのですが、演じられる役の幅が広いので毎回大変なのではありませんか?
安藤:脳外科医の役のときは実際に先生の真横に立って目の前で脳の手術を見学させて頂きましたし、カメラマンの役のときは昔から写真は撮ってはいたんですけど、ちゃんと現像までやってみようと思って知り合いのフォトグラファーの家で現像させてもらったりしました。そして本作では末期がん患者の方に取材をして役作りの参考にさせて頂きました。ストイックというイメージを持ってくださるのは嬉しいですけど、僕一人の力ではなく、協力してくださる方のおかげで役作りができているのでありがたいです。
──では最後に、本作の撮影で一番印象に残っていることを教えて頂けますか?
安藤:先ほどもお話ししたように病室のシーンが多かったですし余命わずかな役だったので、どちらかというと撮影が終わったときのほうが印象に残ってますね。撮影期間中はお酒を断って食事も制限していたので、それを知っていた千鶴が撮影最終日に“今日までお酒飲めなかったでしょ”とビール2缶とワインボトル1本くれたんです。そのあとはもうお察しの通りで(笑)、千鶴に頂いたお酒はもちろん、小岩まで移動して吉田類さんが酒場放浪記で紹介された焼き鳥屋に行ってみたり、とにかくベロベロになるまで飲みました(笑)。これからもクランクアップ後に美味しいお酒が飲めるような良い映画と出会っていきたいです。
映画『きらきら眼鏡』はTOHOシネマズ ららぽーと船橋にて先行公開中/9月15日(土)より有楽町スバル座ほか全国順次公開
(C)森沢明夫/双葉社 (C)2018「きらきら眼鏡」製作委員会
取材:奥村百恵/写真:小宮駿貴