映画『運び屋』公開記念トークイベントが22日、都内・ワーナー・ブラザース内幸町試写室にて行われ、映画評論家の町山智浩が出席した。
『許されざる者』『ミリオンダラー・ベイビー』『グラン・トリノ』『アメリカン・スナイパー』『ハドソン川の奇跡』といった映画史に残る名作に続き、クリント・イーストウッド監督作史上6本目となる全米興収1億ドル突破を果たした『運び屋』。「ニューヨーク・タイムズ・マガジン」に掲載された前代未聞の実話を元に、巨大麻薬組織の運び屋として巨額のドラッグを運ぶ90歳の運び屋を描き、10年ぶりとなる監督兼主演作として世に送り出した実話サスペンスの傑作だ。
クリント・イーストウッドが今作で演じるアール・ストーンは、一度に最大13億円相当のドラッグを運んだとされる“伝説の運び屋”。町山は「イーストウッドは絶倫だ。米寿を迎えた今、さすがの許されざる者も枯れたろうと思ったら甘かった。『弾切れだと思ってるんだろう?試してみるか、小僧!』というハリーの名ゼリフが蘇る!」と絶賛している。
大ヒットの要因を「やっぱり“俳優イーストウッド”が観たいんだと思います。アメリカのアイコンなので」とコメント。続けて、「(演じている役は)本人も言っているように彼自身を投影したキャラクター。半自伝的な作品だと思います」と言及。モデルの詳細が、犯罪のディテール以外「一日花デイリリーの名栽培家」等としかわかっておらず、町山は「イーストウッドが『どういう人だったか(設定を)作ってしまおう!』ということで、ほとんど自分の話にしてる。自身のあてがきのような映画なんです」と明かした。
イーストウッド本人にインタビューをした町山は「家庭をあまりにも蔑ろにしすぎてしまった。反省している」と言っていたそう。「最初の奥さんとの間に生まれたのですが、イーストウッドは直後に別居しているんですね。出演しているアリソンさんは、家庭を放り出したイーストウッドの被害者なんです。この映画でイーストウッドに対して『父親と思ったことがない!』『お母さんを酷い目にあわせて…』と言っていて。本当のことを言っているんですよね(笑)」と笑みをこぼした。
俳優イーストウッドについて町山は「2種類ある。一つは『ダーティハリー』系で渋くてしかめっ面をしていてほとんど喋らない。めちゃくちゃハードなキャラクター。もう一つは、スケベで女にだらしがないキャラクター。後者の映画はかなり多いです(笑)女にだらしがなくて苦労する、自分で監督して演出もしている作品もありますから(笑)今回もその路線でとんでもないことをしています」と明かす。
「最近はね、耳が遠いらしくて…補聴器をつけるのがイヤみたいで、意地でもつけない(笑)何度も聞き直してコミュニケーションに問題はあるんですが、想像力はすごい!イーストウッドならではの演出、イーストウッドの映画って必ず空撮シーンがある。そういう自分のタッチというものを意識していて、演出はボケてないんですよね。この映画、枯れてないです!ギラギラしたイーストウッドらしい欲望が滾っています!」とも言及した。
また、長女のアリソン・イーストウッドが出演していることに、「デビューが11歳で、女優として非常に能力が高い。『タイトロープ』で変質者に自分の娘を縛らせてるんです!父親なら絶対にさせないですよね(笑)イーストウッド家が『相当大変だったんだろうな…』と思うような映画。なかなか鍛え上げられた娘さんなので、今回もビビらずばっちり演じています」と称賛した。
近年、実話をもとにした作品に定評のあるイーストウッド。町山は「イーストウッドは昔からネタを探しまくっている。歴史上の事実、面白いネタは片っ端から拾ってるネタ探しの人なんです。すごく資料を読み込む。『歳を取り過ぎても勉強し続ける。変わり続けることが大事なんだ』とインタビューで言っていました」と語った。
さらに、「どんなに私生活がめちゃくちゃだろうと仕事で評価されるのが男。その時代は終わりつつある。そういう時代の変化に追いついていく、キャッチアップしていかなければ嫌われる親父になってしまう。良い爺さんになれてるかな、俺」ともインタビューで答えていたというイーストウッド。自身の子供たちをスタッフやキャストとして起用し、これまでの贖罪を晴らそうと努めているという。町山は「人生をまとめ上げようとしていると思います。『人の人生というのは、一本の映画のようだ』とも言っていました」と語った。
映画『運び屋』は3月8日(金)より全国公開
(C)2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC